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『とある12歳の恋物語 ~委員長Side~』(オリジナル百合SS)

久しぶりにオリジナルのSSを公開します。
『とある12歳の恋物語 ~委員長Side~』というお題です。
今回の主役は小6女子二人組でございます。

これはもともと「ものとーんわーるど」の黒咲レンさんと、
ついったーの方で盛り上がった内容がきっかけになってます。

その1
 こんな感じですかー。『あたし、××××。12歳の小学6年生。
 学校では普通を装ってるけど、夜になると…だめだめ、これ以上はナイショだよっ? ふふっ♡』


その2
 夜の世界では百戦錬磨の××さんだったが、
 ふとしたことから親友のいいんちょ(♀)への恋心に気づいて
 悶々とした毎日を…よし、これで百合ですねっ!!


 (××の部分には実名がはいっているため伏字にしました)

この呟きだけをヒントにして、黒咲さんが主役の一人の視点でSSを執筆されました。
その想像力にはまったくもって脱帽です。
そのSSはこちら→SS「とある12歳の恋物語」【オリジナル】(別サイト)で読めます。

お話自体は一週間ほど前に出来上がっていて、私も拝見させていただきました。
それはもう、ネタSSとして死蔵しておくのはちょっともったいないくらいの出来でして…。

ただ元ネタが三次元の方々だったので、
やはり公開するまでにいろいろ調整作業が必要で、
ようやく世に出せるところまでこぎつけることができました。

関係各位のみなさまのご協力と、
特に快く公開を承諾していただきました元ネタの方の、
海のように深く寛大なお心には深い謝意をささげます。


そういうわけで、
この作品はフィクションであり、
仮にどこかで聞いたような名称が
出てきたとしても、
現実のそれらとはまったく無関係です。

特に「けいおん」二次創作に関わっている方々であれば、
『蒼鵺智』とか『黒崎煉』とかでピンとくる向きもあろうとは思いますが、
まったくもってキッパリ無関係です。
元ネタにはしましたけどw



さて、こちらでは「ものとーんわーるど」さんとの相互リンク記念を兼ねて、
それの続きを書かせていただきました。

『委員長Side』と銘打っていますように、
こちらのお話は二人組のもう片方、いいんちょさんの視点で書かれています。

あらすじとしてはですねー。

 秘かに親友への恋心を募らせる委員長。
 ところが親友は「告白したい人がいる」と言い出す。
 しかも委員長に告白の場所にいっしょに来てほしいと懇願するのだ。
 果たしてこの秘密の恋の行方は……!?

という感じです。
なお分量はおよそ8500文字と、このブログで掲載しているSSの中ではダントツで最長です。
ご注意ください。


大事なことなのでもう一度。
この作品はフィクションであり、
仮にどこかで聞いたような名称が
出てきたとしても、
現実のそれらとはまったく無関係です。

特に「けいおん」二次創作に関わっている方々であれば、
『蒼鵺智』とか『黒崎煉』とかでピンとくる向きもあろうとは思いますが、
まったくもってキッパリ無関係です。

でもさー、他のみんなは小6なのに、なんで一人だけ先生役なの?
そんなにババクサく見えてんのかなー(涙


そうそう、作品をお読みいただくにあたって、ひとつだけ言い訳を。

ふだんPCで閲覧されている方々はご存じないかもしれませんが、
このFC2ブログは携帯で閲覧すると、プロフィール欄がトップページには表示されません。
プロフを読みたい場合はそのページまで飛んで行かないとならないんです。
PCで閲覧すると、特にカスタマイズしなければ普通に目に入ってしまうんですけどね。

そのことを頭の隅っこに入れておいてお読みいただけると、とっても助かります。
こういうのは本来、お話の中で説明しなければいけないんでしょうが、
私の力不足でどうしてもいれられなかったものですから。

それでは、お楽しみくださいませっ!



 『とある12歳の恋物語 ~委員長Side~』



 ランドセルを自室の床に放り出し、勢いよくベッドに倒れ込むと、身体が何度もバウンドする。

「はあっ」と、何十回目かのため息をつく。

 今日もまたひとつ、智ちゃんを好きな理由が増えてしまった。さきほど彼女に引かれた左手を明かりにかざす。まだ温もりがまだ残っている気がする。

 夜は辛い。大嫌い。智ちゃんに会えないから。

 さっき別れたばかりだというのに、メールや電話でやりとり出来るのに、また明日会えるとわかっているのに。それでもイヤなものはイヤだ。

 脳裏に彼女の姿がふわりと浮かぶ。まぶしい笑顔で。

 ライトブラウンに染めた髪の毛、両耳にはピーチピンクのピアス、長く伸ばした爪には艶やかなエメラルドグリーンのマニキュアを塗っている。すっぴんでも十分目を引くだろう端正な顔を、入念なメイクでさらに磨き上げている。

 とても小学生には見えないくらい大人びた雰囲気。背がすらっと高く、しかし出るところはきっちり出ている。有名なティーン向けファッション誌上で専属読者モデルとしてデビューした時なんか、自分の目を疑いながらも、いや彼女ならありえるなと思ったりしたものだ。

 気分を変えようと携帯に手を伸ばし、ブックマークからお気に入りのサイトを呼び出す。それは最近、世間でも話題になっている、とあるアニメの二次創作作品を公開しているサイトだった。名前を『明日の風は明日吹く!』という。

 そこではオンナノコ同士がキャッキャウフフする内容──その筋では『百合』とか『ガールズラブ』とか呼ばれているらしい──の小説、イラスト、さらにはコミックと、とても多彩な作品が公開されていた。最近では毎日欠かさずチェックするようにしてる。それらの作品自体のクオリティの高さもさることながら、元ネタの作品に対し熱く語っている内容、いわゆる萌え語りにとっても共感できたからだ。

 このサイトを運営しているのは、おそらく十代の女性なのだと思う。もっともプロフィールをチェックしたことはまだ一度もない。以前にも似たようなサイトのプロフィールを見たところ、それはもう信じられないような性癖で埋め尽くされていたことにショックを受けてしまい、以来トラウマになってしまったからだった。

 優れた作品を生み出す人間が、優れた人格者とは限らない。ひとつ勉強になった。かなり苦い薬だったけど。

 それはさておき、残念なことに最近は、そのサイトの更新頻度がやや下がってきている。どうやら中の人が忙しいのが理由らしい。あちらにもいろいろ事情があるのだろうし、それに対してただの読者にすぎない私が文句を言うのは筋違いというものだろう。

 その他にもひとしきりサイト巡りをしてから、念のためにもう一度新着メールを確認する。何通かメールは届いていたが、残念ながら期待したものではない。

「今日はメールの返事、来ないな」

 ついひとり言を呟いてしまったりして。

 それにしても果たして私の心に、いつから智ちゃんが住み着いてしまったのだろう。自分でもよくわからない。

 たとえば明らかにクラスで浮いている彼女の面倒をあれこれと焼き始めた頃、ふと垣間見た彼女の笑顔を目撃した時だろうか。

 いや待てよ、クラス内でのいざこざを、自分が悪役を引き受けることで丸く収めてしまうという、見事なまでの手際のよさを見せつけられた時だったような気もする。

 いやいや、ひょっとすると委員長の重圧に耐えかねて潰れそうになっていた頃に、「たまには手を抜いてもいいんだよ」と呟いてくれた時かもしれない。

 彼女に関してよからぬ噂が流れていることも知っている。実際に私が、塾の帰りにそれを裏付けるような状況に出くわしたことだって、一度や二度じゃない。

 だけど彼女を取り巻く世界は私なんかよりはるかに広いのだ。モデルのお仕事をしていれば、嫌でも大人の社会に向き合わされることだってある。そんなとき、いったい私に何が言える。いや、言えるはずない。ただの小学生にすぎない、この私に。

 はるかに大人で、はるかに強くて、はるかに美しくて、はるかに優しくて。

 そんな彼女のいいところ、よくないところ。全部ひっくるめて、好き。

 今や彼女の存在しない世界なんて考えられない。比喩でもなんでもなく、彼女のためなら私はなんだってできる。命だって惜しくない。

 もちろん、そんなことを言えるわけがない。二次元と三次元ではルールが違う。いくら私が彼女に恋い焦がれようと、それが実を結ぶことなんて絶対ない。

 だから私は彼女の親友なのだ。それ以上は期待もしないし希望も持たない。たとえどれほど想いを募らせようと、決してそれだけは口にしない。そう決めて今までうまくやってきた。

 演じるのにも、もう慣れた。

 昨日も親友。
 今日だって親友。
 明日からもずっと親友。
 いつまでも、どこまでも、親友。

「ごめんね、智ちゃん」

 私は嘘つきの親友なの。
 決して許されることのない懺悔を、貴女に。

 どうしようもなく涙が溢れた。
 このまま胸が押しつぶされてしまいそう。

 もちろんわかってる、その理由くらい。

 この苦しさは、この世で一番大切な人を欺き続けている、罰だ──。

    ◇  ◆  ◇

 今日の智ちゃんは、朝から様子がおかしい。

 ぼんやりと窓の外を眺めてたり、ため息ついてたり、授業中に爆睡してたり、……いや、これはいつものことか。それと左の親指に、ずいぶんと無造作に絆創膏が巻きつけられているのも気になった。

 とにかく、いつもの彼女じゃないのだ。

「どうしたの、なんかヘンだよ。何か心配事でもあるんじゃないの?」

 昼休み、とうとうたまりかねた私は、智ちゃんに声をかけた。

「うん、ちょっとね」

 わずかに迷いの色が智ちゃんの顔に浮かんだ。一呼吸おいてから、再び彼女が口を開く。

「自慢じゃないけど、あたしって今まで自分から告ったこと、一度もないんだなぁって」
「それってつまり、告白したい相手がいる、ってこと?」

 内心の動揺を押し隠しながら、私は最悪の予想を口にする。

「まあそういうこと……になるのかなあ、やっぱり」
「なんかずいぶんと弱気じゃない。そういうの、智ちゃんらしくないよ」
「いや、さすがに今回はかなーり勝算薄いかなあと。すっごい高嶺の花だし、他にもいろいろ、ね」
「そうなんだ……」

 机の中から取り出した純白の封筒を私に見せながら、そんなことを言う。次第に目の前が暗くなっていく。きっとラブレターに違いない。私でない誰かに宛てた。

「ねえ、今日の放課後、時間ある? ちょっといっしょに来てほしいんだけど」
「別にいいけど……でも、私なんかいてもいいの?」

 以前からよくわからない子だとは思ってたけど、今回の発想もわからない。なぜ私?

「言ったでしょ、今回はかなーり勝算薄いんだって」

 今にも消えてしまいそうな声だった。こんなにまで弱気な智ちゃんを、私は初めて見た。

「あたしたち……親友だ、よね?」

 親友。

 その言葉が、深々と私の心に突き刺さる。

 ズキズキする。グラグラする。ムカムカする。

 きっとこれは呪い。
 今までの私の裏切りに対する報い。

 ふと、あのサイトで公開されている小説のひとつが脳裏に浮かんだ。それは、あまりに相手のことが好きすぎて、しだいに病んでいく少女のお話。あそこで公開されている無数の作品のなかでも、一番のお気に入りだった。

 いっそ私も病んでしまいたい。それはそれでとても辛く悲しいことなのだろうが、少なくとも好きな相手に対し、誰はばかることなく好きだと叫べるという立場は、とても羨ましく魅力的だった。もちろん私には絶対そんな事できないし、かといってお話のような間柄になれると夢見られるほどのお子さまでもない。

 もし幼稚園児だったら、小難しいことを考えることなく「大好き」と言えただろう。あるいは大人になれば、恋愛も人生の一部として割り切れるようになるのかもしれない。でも残念ながら今の私はそのどちらでもない。ただの小学生なのだ。お子さまでも大人でもない、ただの小学生。

 それこそが、嫌になるほど冷酷な、私たちのリアル。



 午後の授業の内容は、ほとんど頭に入らなかった。

    ◇  ◆  ◇

 とうとう恐れていた放課後がやってきた。まもなく始まる儀式。それは死刑の宣告か。それとも世界の終末か。

 なるべく目立たないように私たちが教室を抜け出そうとすると、いつものように黒板で落書きしていた黒崎さんが、急に私たちの方に振り返った。

「智ちゃんもいいんちょも、頑張ってねっ!」

 なんて、親指立てながら。

「うん、頑張るっ」

 一瞬だけ小首を傾げてから、やがて何かに思い当たったらしく、智ちゃんも同じようなポーズで答えた。どうやら黒崎さんは、私の知らない何かを知っている。さらにそのすぐ後ろでは、担任の芹沢先生が全てを見通したような笑顔を浮かべていた。

 ひょっとして私だけが仲間はずれなのだろうか。

 何が親友よ。とんだピエロじゃない。



「じゃあ、この辺りに立ってて」
「な、何で、こんなところに……?」

 私を屋上の一角に立たせると、智ちゃんは何歩か離れてからおもむろに振り返る。

 夕方の茜色の光が彼女の半身を紅く染め上げていた。柔らかな風が髪とプリーツスカートの裾を揺らしていく。それはもう息を飲むほどの美しさだった。

 だが彼女は、こわばった表情を顔に張り付かせたまま、ちっとも動こうとしない。身を切られるような沈黙の時間が流れていく。1分、2分、3分……。

「ねえ、告白したい相手って、いつになったら来るのよ?」

 とうとうたまりかね、私は智ちゃんに質問を投げかける。しかし彼女の答えは私の予想の斜め上を行くものだった。

「もう来てるよ。あたしの目の前に」
「何、言ってるの。ここには──」

 二の句を継ぐことができなかった。ようやく理解が追い付いたから。彼女が何を言いたいのか。

 そう、誰もいない。彼女の前には誰もいない。私以外には。

「昨日の夜、ようやく気づいたの。あたし、委員長のことが好きだって」
「……っ!」

 耳を疑うような台詞だった。悪い夢でも見ているのだろうか。

「ちょ、ちょっと待ってよ。訳わかんないよ。その告白の相手って、まさか、私なの?」
「そう、だけど」
「だって、自信ないから私について来てくれって……」
「確かに勝算薄いとは言ったけど、自信ないからついて来てなんて言ってないよ?」

 そんなバカな。混乱する頭で、なんとかして昼間の智ちゃんのセリフを思い出す。

  ──ねえ、今日の放課後、時間ある? ちょっといっしょに来てほしいんだけど
  ──言ったでしょ、今回はかなーり勝算薄いんだって
  ──あたしたち……親友だ、よね?

 ……言ってない。確かに言ってない。あっという間に頭に血が登るのを自覚する。

「でもあんな言い方されたら、誰だって誤解するじゃない!」
「ごめん、最初から誤解させるつもりだった。てへっ」
「ペコちゃん顔でごまかすなーーーっ!!」

 限界だ。もう我慢の限界だ。爆発。大爆発っ。

「信じらんない。今まで私がどれだけ我慢してきたと思ってるのよっ!」

 止められない。自分自身でも驚くほどの怒りが込み上げてくるのを止められない。

「それなのに、昨日の夜に気がついて、その翌日に告白とか……ふざけんなあぁっ!!」
「でもほら、あたしってば大好きなものには目がないし」
「あー、うん、そうだね。智ちゃんはそういう子だよ。自重しない子だもんねっ」
「なんかあたし、ものすごく酷いこと言われてる気がするんだけど……」

 そんな風に呟く智ちゃんの顔は、とても傷ついたとでもいうような、それはそれは情けないものだった。心がチクリと痛む。

「授業中もいっつも寝てるし、掃除当番もさぼってるし、一見して近寄り難いくらいの美少女なのにっ」

 もう自分でも何言ってるのかわかんない。驚いてるのか、喜んでるのか、怒ってるのか。

「でも実はとっても優しくて、いつも私のコト支えてくれてて、自分と仲良しだって広まると私の立場が悪くなるかもって気を使ってくれて」

 半ば狂ったように喚き散らす。それに対して智ちゃんはまるで反論しようとせず、ただ黙って聞いている。私の瞳を見つめながら。

「それで学校でなかなか話せない分メールいっぱいくれて、昨日だってバカ男子から私のコト助けてくれて、そんな智ちゃんがずっと大好きで」

 なんか、とんでもないことを口走ったような気もするけど、とりあえずスルー。

「でもそんなこと言い出したら絶対引かれると思ってて、だからずっと我慢してて、それで、それで……」

 言いたいことはたくさんあるはずなのに、頭の中がぐるぐる台風のように渦巻いてしまって、言葉が続かなくなる。すると智ちゃんがゆっくりと歩み寄ってきた。ふところからピンク色のハンカチを取り出すと、私の目頭や頬をそっとぬぐってくれる。

 それでようやく、自分がぽろぽろと涙を流していたことに気づかされた。言いたいことはまだまだ山ほどあるけど、とりあえず矛を収める。

「もう一度言うよ?」

 無言で私はうなずく。

「あたし、委員長のことが好き。この世の誰よりも好き」

 そう言って、先ほどの純白の封筒を私に向かって差し出す。それがはっきりとわかるくらい震えていることに、ようやく私は気づくことができた。

「開けても、いいの?」
「うん」

 てっきり恋文か何かだと思ってたのに、中にはいっていたのは、意外にも小さく折りたたまれた書類のようなものだった。風に飛ばされないよう慎重に広げる。その紙の一番最初にはこう書いてあった

 ──『婚姻届』。

「委員長、好きです。だからあたしと結婚して」

 身体中の力という力が抜けた。たまらず両膝をついてしまう。その痛みで、これが夢とかではなく、まぎれもない現実なのだということを嫌でも思い知らされる。

「何、幼稚園児みたいなこと言ってるのよ。私たち、まだ小学生じゃない。いやそれ以前に私たち、女の子同士じゃない。法律的に結婚なんてできるわけないでしょ!」
「知ってるよ、もちろん」

 まるで遠い昔の出来事を思い出すかのように、智ちゃんは軽く目を閉じる。

「日本国憲法第24条だよね。『婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない』」

 完璧な暗唱だった。正直なところ、かなり意外な感じ。普段お世辞にも勉強熱心とはいえない智ちゃんが、たとえ一節とはいえ憲法をそらんじることができるなんて。

「この『両性』って言葉が男女を指しているって考えられてるから、女子同士での結婚も認められない」
「そうよ、だから私たちだって無理なんだから」
「法律的なことはそうなんだけど、これは気持ちの問題だから。あたしのサインはもうすませてる。だからもし委員長さえよかったら、いっしょにサインしてほしいの」

 広げられた書類に視線を落とす。確かにそこには見慣れた字で『蒼鵺智』という署名と、親指と思われる拇印が押されていた。朱肉とは明らかに異なる、黒ずんだ赤で。

「もちろん、今すぐでなくてもいいよ。ずっと待ってるから」

 硬い表情を崩さないまま、智ちゃんは私の返事を待っていた。

「これって、もしかして……血判なの?」

 ようやく智ちゃんが薄い笑顔を浮かべる。

「ちょっとカッコいいでしょ。これこそリアル血の誓約、みたいな」
「バカ……」

 やっとわかった。ずっと気になっていた、彼女の左手の親指に巻かれた絆創膏の意味が。

「ほんとにバカ。何やってるのよ、大事な身体を傷つけちゃったりしてっ」

 再び涙がとめどもなく溢れる。

「そんなことしなくても、OKに決まってるじゃないっ!!」
「ありがとう」

 彼女も同じような姿勢で膝をつくと、私の身体をそっと抱きしめる。それからお互い視線を合わせ、そのままどちらからともなく唇を重ねた。

「大好き、委員長。大好き。もう一生離さない」
「私だって、私だって、もう……大好きなんだからっ。一生くっついててやるんだから!!」

 そしてここが学校の屋上ということも忘れ、互いの身体を強く抱きしめたまま、私たちはこれ以上ないというくらいの大声で泣いた。

    ◇  ◆  ◇

「どうやら丸く収まったみたいね」

 いったいどれくらいそうしていたのだろう。芹沢先生に声をかけられて、ようやく私たちは我に返った。その後ろに隠れるようにしながら、黒崎さんが「ぐっじょぶっ」と笑顔で親指を突き出している。

「ずっと階段の下で待ってたんだけど、なかなか降りてこないから、つい上がってきちゃった」
「ひょっとして先生、知ってたんですか。私たちのコト」

 当然の疑問を私は口にする。すると芹沢先生は、まるで女神さまのような笑顔を浮かべながら答えた。

「そりゃこれでも担任だし。授業中に誰が誰のことを見つめてるかくらい、わかるわよ」

 うわぁ、うまいこと隠してたつもりだったのに、実はバレバレだったのか。そんなことを考えつつ、照れ隠しにほこりを払いながら立ち上がった時のことだった。

「ねえセンセ。せっかくだからちょっと教えてほしいことがあるんだけど」

 首をひねりながら、今度は智ちゃんが先生に質問を投げかける。

「オンナノコ同士って、どんな風にするもんなのかなあ」





 …………………………………………………………は?





「いやほら、男女のアレは保健の授業とかでも習うけど、女同士のアレってあんま聞いたことないし」
「アホかあぁぁーーーーっ!」

 光の速さで私は突っ込んだ。何を考えてるの、アンタはっ。

「いやさすがに、それはまだ早いんじゃないかな。それに私もそういうのはあまり詳しくないし」

 苦笑いを浮かべながら芹沢先生が応じる。すると実に不思議そうな表情を浮かべながら、黒崎さんが口を開いた。

「ねえ先生、ひょっとしてオンナノコの同士のアレって、私と先生がときどき、」
「ちょ!!」

 あわてて芹沢先生が黒崎さんの口を両手で塞ぐ。

「さ、ささ、そろそろ下校時刻だし、いい子はみんな帰りましょう。ね?」
「へー。ふーん。そうなんだぁ。センセと黒崎さんって、そういうカンケーだったんだ……」

 どこか冷めた口調とジト目で智ちゃんが突っ込むと、芹沢先生は滝のような汗を全身から流しながら、すっかり硬直してしまった。

 何なんだ、今日は。みんなで秘密の関係暴露大会とか。それにしてもちょっと先生が可哀そうになってきたなあ。

「あの、先生。このことは誰にも言いませんから、どうか安心してください」
「あ、ありがとう。もし公になっちゃったら、ほら、淫行教師とか言われちゃって、いろいろマズイし」

 すっかり小さくなってしまった芹沢先生の肩を、智ちゃんがポンと軽く叩く。

「というわけで、バラされたくなかったら、今度の休みにでもイロイロ教えてね、センセ?」

 ちょっと、よりにもよって何をアホなことを……。

「……わかったわ。その代わり秘密は厳守よ」

 先生もわかっちゃうんだ。納得しちゃうんだ。

「じゃあそういうことで、今度の日曜はセンセの家で勉強会だーっ!」
「勉強会だーっ!」

 いつの間にか、智ちゃんと黒崎さんの二人は、肩を並べて夕日に向かって叫んでいた。思わず両手で頭を抱えてしまう。もう何をどこから突っ込んでいいのかもわからない。



 ……さっきは勢いで『一生くっついててやる』なんて言っちゃったけど、なんか前言撤回したくなってきたなあ。

    ◇  ◆  ◇

 目の回るような一日が、まもなく終わろうとしている。

 自室に戻った私は、昨夜とはまるで正反対のウキウキ気分を引きずったまま、いつものように携帯でネットの巡回をはじめた。もちろん最初はお気に入りのあのサイトである。

 すると画面に見慣れない記事が表示された。どうやら久しぶりに更新されたらしい。記事の先頭の一文が目に飛び込んでくる。

 ──彼女ができましたっ!!

 あれ、ここのサイトの管理人さんって、男の人だったんだ。少しだけ落胆しながら、それでも記事の内容を頭から読み始める。お相手はどんな人なのだろう、なんて思いながら。

 ところがである。その内容はあまりにも信じがたいものだった。

 いわく、相手が同じクラスの委員長であること。
 いわく、言葉巧みに屋上へ誘い出したこと。
 いわく、相手に血判入りの婚姻届を渡したこと。
 いわく、初めてキスを交わし、二人で号泣したこと。

 もちろんそこまでに至る経緯も事細かに記されていて、その最後には『女同士だけど頑張りますっ』と結ばれていた。

 あまりのデジャブな内容に、腰が抜けそうになった。っていうか、ぶっちゃけ腰が抜けた。



 ウソ。
 ウソでしょっ。

「ウソでしょーーーー!!」

 思わず絶叫してしまう。別に自分の部屋だから、多少声を張り上げても問題ないのが救いだったが。

 すっかり大混乱に陥っている脳内に、ふと閃くことがあった。そういえば私って、このサイトのプロフィール欄、ずっとスルーしたままだったっけ。ひょっとしたらそこに何かヒントがあるかもしれない。たとえばその、管理人さんの生年月日とか、血液型とか、住んでいる場所とか。

 それからもしかしたら、名前とか。

 指が、いや全身に震えが走る。まるで携帯を思うように操作できない。かなり苦労してようやくトップページに戻る。そして改めてプロフィールの欄を選択した。

 そして、大きな期待と小さな不安を胸に抱きながら。

 私はそっと選択ボタンを、押す──。

 (おしまい)

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おもに百合(GL・ガールズラブ)な小説と周辺情報を公開しています。最近はコミPo!でオリジナル百合4コマも。現在は「けいおん!」、「魔法少女まどか☆マギカ」とオリジナル。カプ傾向は澪梓、憂梓、恵和あたり。あと、ほむほむは百合。
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注:管理人の名称は「あっとあとみっく」が正式ですが、ごくまれに「藍」と名乗ることもあります。

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