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『森と湖と妖精の王国から』(けいおんSS)

「けいおん!」のSSを公開します。

今度はキーボード担当の人が主人公です。

高校二年の夏休み。
『ムーミン』の故郷、ナーンタリへ避暑に訪れていた彼女は、
喉の渇きにも似た焦燥感に苦しめられていた。

という感じで。

アニメ第一期の第十話で、

──夏休みに律が彼女の家に電話してみたら執事が出て、
本人は海外に避暑に出かけて留守だった──。

いう話があったのを覚えている方もいらっしゃると思います。
そこから妄想してできたのが今回のSSです。

ただし……ほんとすいません。

実はこのSS、百合エッセンスが皆無。
しかもオリキャラ・独自設定ありと、
いたるところに地雷が埋まってます。
ご注意ください。

それでは、お楽しみくださいませっ!


『ユニークな友だちと』から)



 『森と湖と妖精の王国から』



 ──青い鳥なんて、どこにもいない。

    ◇  ◆  ◇

 こんなにも太陽はあたたかなのに。こんなにもナーンタリの空は青いのに。なのにどうして私の心だけが、こんなにも寒々としているのでしょうか。

 目の前には、水平線のかなたまで青々とした色をたたえたバルト海が広がっています。また背後にはリゾートホテルの建物と、さらに深緑色の針葉樹林の森、そして蒼く輝く湖が見えるはず。

 こんな風景の中に身を置いていると、ひょっとしたら湖の岸辺では、今もヘムレンさんが釣りをしていたり、スナフキンが詩を吟じているかも、という気がしてきます。おそらくこれは私だけの空想ではないでしょう。そもそもこの町が、あの世界的な名作『ムーミン』のムーミン谷のモデルにもなった場所でもあると知れば、多少はご理解していただけるでしょうか。

 まさしくここは森と湖、そして妖精たちの王国。

 そんな場所で、白磁のタイルがすき間なく敷き詰められたホテルの屋外プールのすぐ脇に、折りたたみ式の水色のサマーベッドへ横たわり日光浴を楽しむ。はたから見ればそれは優雅なバカンスと思われても仕方がないでしょう。でもそんな光景でさえ、私の落ち着かない気分を静めることはできませんでした。

 何かとても大切なものを忘れてしまっているのに、それを思い出すことができない。

 そんな喉の渇きにも似た焦燥が、私の奥深くでうずき続けている。

 その時すうっと、白い影が空を横切りました。目で追いかけてみると、どうやらカモメのようです。あの青空をどこまでも自由に舞うことができる翼がうらやましい。

 でも、私には──。

    ◇  ◆  ◇

 ふと気づくと、なんだか空模様が怪しくなっていました。どうやら少し眠っていたようです。北欧の天気はとても変わりやすい。たとえ雲ひとつない快晴の空であっても、気まぐれな北極の寒気のせいで、あっという間に天気が変わり、時には雨が降り出すことも少なくないんです。

 いくら夏といっても、こちらの気候は雨でずぶぬれになることを許すほど優しくはありません。なので手近なポイントからプールへ飛び込み、屋内へ戻ることにしました。このプールは屋外と屋内にまたがっていて、泳いだまま屋内施設に入ることができるんです。というか、そもそも水中からしか出入りできないのですが。

 屋内はずいぶんとにぎわっていました。ここはさまざまな人種、さまざまな世代、さまざまな言語が飛びかう異空間。しかし誰一人として、私に関心を向ける人はいません。

 ここでは私は、ただの人間としてふるまうことができます。たとえば私の髪や肌の色だとか。それなりの社会的地位を持つ父親の娘だとか。そんなこと誰も知らない。気にも留めない。

 そういう意味では、ここはとても気楽。顔や名前が知られているというのは、得をすることもあれば、それなりの代償を支払うはめになることもあるのです。それはまた、電車を利用しなければならないほどの遠い高校を選んだ理由のひとつでもありました。地元から離れてしまえば、少なくともそのことでとやかく言われることはない。そう思ったんです。

 ここには温泉を利用したバスがいくつもあつらえられています。でも私はそれを横目に、奥まった場所に設置されているサウナへと向かいました。ここが冷えた身体を温めるには一番手っ取り早いからです。それに私のお気に入りでもあるので。



 サウナの中は照明が落とされ、あまりはっきりと様子をうかがうことができません。でも目をこらしてよく見ると、どうやらひとりご年配の女性がいらっしゃるようでした。

 その女性が私に向かって朗らかな笑顔を浮かべながら、張りのあるアルトでようこそ、と声をかけてきました。
『私はオウルから来たのよ』
 記憶をたどります。たしかオウルは、バルト海の一番北の端にある港町。あそこの大学は、世界でもっとも北方にあるのだとか。
『私は日本からなんです』
『おやまあ、それはそれは。いらっしゃいませ、お隣のお隣さん』
『お隣の……お隣さん、ですか?』
 意味がよくわからず、私は首を傾げてしまいます。すると女性はいたずらっぽい笑顔を浮かべながら、こうおっしゃるのです。
『だってここと日本の間には、たった一つの国しかないもの』
 なるほど、ようやく女性の言いたいことが飲み込めました。

 確かに彼女の言うとおり、この国と日本との間にはロシアしかありません。そういう意味では近いと言えるでしょう。ただしロシアが地球上で最大の面積を誇り、たとえ旅客機を使っても横断するのに八時間もかかってしまう、という事実を無視すれば。

 それは地理的というより、どちらかというと心理的な問題。つまり彼女は私に対して遠まわしに親近感、いえ、好意を表してくれているんです。とてもステキな言い回しだと思いました。誰にでも老いは訪れるものですが、できればこの女性のように歳を重ねていきたいものですね。

 ああ、そういえば。私の身近にもこんな人がいました。

 この女性とお話しているうちに、なんだか自分の祖母に会いたくてたまらなくなってしまったんです。

    ◇  ◆  ◇

 ──青い鳥なんて、どこにもいない。
 ──そんなことわかっている。

 ──でも、ひょっとしたら……。

    ◇  ◆  ◇

 久しぶりのあいさつや家族の近況などを伝えた後、私の学校の話になりました。

「高校では軽音楽部に入ったのよ。バンドに参加していて、私はキーボードを担当しているの」
『ピアノが好きなあなたには、ぴったりのパートですね』
 柔らかな物腰で祖母が答えます。こういうときは優しい人なのですけれど。

「それで、これが私たちの演奏の録音なんだけど」
 そういって私は、iPodに入れてあった録音を祖母に聞かせました。
『こういうのはよくわからないけど、なんだかとても楽しそう。音たちがうれしそうにはずんでいて。きっと皆さんはとても仲がいいのでしょうね』
「そうそう。軽音部の人たちは、みんなで演奏するのが大好きなの」

 祖母はこの国の民族楽器、カンテレの奏者でもあります。カンテレは優しく透明でどこか物悲しい音を出す、とても不思議な楽器なのです。そしてたとえジャンルは違っても、彼女の音に対する感覚はとても鋭く、そら恐ろしいほどに的確でした。

 たとえば小さい頃にピアノの演奏を披露したときも、自信のない個所をことごとく指摘されたり。まして手抜きなどしようものなら容赦のないしっ責を受けることもありました。こと音楽のことに関しては、祖母の前で嘘やごまかしは絶対できない。幼心にもそう感じたものです。

 もっともそういう人だからこそ、彼女の賛辞を得ることはなによりの喜びであり、目標でした。今にして思えば、そもそも祖母の奏でるカンテレの音にあこがれたのが、私の音楽への道の第一歩だったのかも知れません。

『軽音楽部の人たちのことを教えてもらえるかしら』
「部員は私を含めて五人なの。ええと、」

 さて、誰から紹介しましょうか。やっぱりこの人でしょうね。

「まず最初に、メインギターとヴォーカルを担当してるのは平沢唯さん。普段は『ゆいちゃん』って呼ばれてる。とにかく発想がとても自由で、飲み込みが早くて、しかもものすごい集中力の持ち主。ある意味、天才って言ってもいいかな。でもそういう所を全然自慢したりしないの。ああいう人柄ってとてもステキだと思う」
『私も、彼女の声はとてもきれいだと思うわ。それにギターの音がなにより楽しそう』

 どうやら祖母も同意してくれたようです。

「次にドラム担当で、部長の田井中律さん。通称りっちゃん。元気いっぱいのムードメーカー。たまに元気がよすぎて失敗しちゃうこともあるけど。でも意外に気配りもできる人なのよ。そしてなにより彼女が、廃部寸前だった軽音部を再建する中心になった」
『廃部ということは、なくなる寸前だったのかしら』
「そうなの。入学直後に、私が合唱部の見学に音楽室に行ったとき、たまたま居合わせたりっちゃんに”部員が足りなくて廃部になりそうだからっ”てお願いされてしまって。でも、みおちゃんとのやり取りがとってもおかしくて、もらい泣きしそうになったり笑い出しそうになったり、まるでマンザイでも見てるみたいだった」
『みおちゃん?』

 いけないっ。まだ説明していませんでした。

「ああ、みおちゃんっていうのはベース担当の秋山澪さん。りっちゃんとは幼なじみなんだって。このふたりは一番気心が知れてるから、やり取りを見てるだけでとっても面白いのよ」
『それはとっても楽しそうなコンビね』
「でもそれだけじゃなくて、彼女はとってもすごいの。ベースの演奏だけでなく軽音部のオリジナルの曲の作詞もしてて、しかもゆいちゃんに代わってヴォーカルを担当することもあるのよ。きれいなロングの黒髪で、しかも落ち着いた雰囲気を持っているから、なんだか年齢以上に大人の女性って感じ。でもすっごく恥ずかしがりで、注目されるのはなんだか苦手みたい。だから舞台に立つときはいつもひと騒ぎ」
『それで全員かしら』

 いえいえ、とんでもありません。

「もうひとり。これまで紹介した人たちは、私も含めて全員二年生だったんだけど、ひとりだけ一年生がいるの。サイドギターを担当してる中野梓ちゃん。私たちは梓とか、あずさちゃんとか、あずにゃんとかって呼んでる」
『あずにゃん?』
「ええと、説明がむずかしいんだけど……あの子はどことなく仔猫ってイメージがあるの。それで彼女の名前と、仔猫の鳴き声の『にゃーん』というのを組み合わせて、『あずにゃん』って。でも彼女はとっても頑張り屋さんで、ギターなんかすごく上手。ゆいちゃんが天才なら、あの子は努力の人かしら。でもときにそれが空回りしたりして、それがまたカワイイのだけど」

『なるほど。なんだかわかった気がする』
「わかったって、何が」
 私が首を傾げていると、祖母は確信ありげにこう言いました。
『今もあなたの心は、彼女たちと共にあるのね』

 胸を突かれました。

 ──それが喉の渇き。
 ──私の忘れ物の正体。

『日本にお帰りなさい、抜けがらのツムギ。置き忘れてきた自分の魂を取り戻すために』
「はい、そうします。おばあちゃん」

 小さなため息を吐きながら、私はゆっくりと目を開けます。

 草原を柔らかな風が走り抜け、さわさわと木々が揺れています。この国にはセミがいません。だから聞こえてくるのは、ただ風がまき起こすざわめきだけ。

 目の前にはひときわ大きな木。その根元近くに樹皮がはがされたところがあって、そこには祖母の名前と生没年が刻まれています。かつてここでは祖母が森の妖精たちと対話し、幾度となくインスピレーションを授けられたのだとか。そして今では、私が祖母とお話のできる唯一の場所。

 他人に理解してもらうのは、とても難しいことかも知れません。

 でも私には、ひょっとしたら今もこのナーンタリの深い森のどこかで、妖精たちのために祖母がカンテレを奏でているのではないか。ここを訪れるたびに、そんな子どもじみた空想が膨らんでしまいます。

 だってここは森と湖と妖精たちのの王国なのですから。
 だから時にはそんな奇跡が起きたとしても全然おかしくない。

 そう、私には思えるのです。

    ◇  ◆  ◇

 ──見つけた。
 ──私の青い鳥。
 ──幸せという名の青い鳥を。

『瞳に浮かぶその色は』へつづく)
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おもに百合(GL・ガールズラブ)な小説と周辺情報を公開しています。最近はコミPo!でオリジナル百合4コマも。現在は「けいおん!」、「魔法少女まどか☆マギカ」とオリジナル。カプ傾向は澪梓、憂梓、恵和あたり。あと、ほむほむは百合。
このブログはリンクフリーですが、相互リンクはお受けしておりません。ご了承くださいませ。
注:管理人の名称は「あっとあとみっく」が正式ですが、ごくまれに「藍」と名乗ることもあります。

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