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『春雨と黒猫に幸いあれ』(魔法少女まどか☆マギカSS)

魔法少女まどか☆マギカのSSを公開します。
『春雨と黒猫に幸いあれ』というお題です。
例によってほむら視点でほむまど。他のCPを期待されてる方はごめんなさい(ぺこり)。

それとOPに登場する黒猫エイミーも登場します。もしエイミーのエピソードを知らないという人は、今すぐまどマギBD1巻のドラマCDを聞きましょうw

わりと短い目です。7KBほど。本当はもうちょっと長くなるはずだったんですが、それだととても今日中に終わらないので、一度ここで切りました。



それでは、お楽しみくださいませっ!




 『春雨と黒猫に幸いあれ』



 春雨は冷たい。
 身も心も凍えさせるほどに。

    ◇  ◆  ◇

 校舎を出ようとした時には、すでに冷たい雨が降り始めていた。朝の天気予報でも『念のために傘を』と言っていたし、午後の授業のあたりから外の雲行きがあからさまに怪しかったから、それ自体にはそれほど意外性を感じなかった。湿っぽい風に頬をべろりとなめられ、あまりの気色の悪さに思わず身を固くする。幸い今まで経験はないけど、もし実際にあの『魔女の口づけ』をされたとしたら、こんな感触を覚えるのだろうか。

 すでに校庭には、いくつもの傘の花が咲いている。おそらく部活動や委員会活動に参加していない子たちは、これから家路についたり、もしくは塾に向かったり、あるいは友人たちと街へ繰り出したりするのだろう。それが彼らにとっての日常なのだから。私のように魔女を狩ることに精を出す女子中学生など、そうそういるはずもない。

 肌寒さを覚える空気を吸い込みながら、鞄の中から小さな折り畳みの傘を取り出して広げる。安さと軽さだけが取りえという、可愛げのかけらもないものだった。もちろん、雨でびしょ濡れにならないという目的さえ果たせるのなら、別に傘だろうとビニールだろうとかまわないのだけれど。

 薄く白いベールに覆われたような街の光景。眠気を誘う雨の音。この身が引き締まるような寒さ。決して嫌いじゃない。かつて病室の窓から、ただひたすら外の景色を眺めていた頃に比べたら、自分の身をその中に置くことができることができるだけ、今の私はずっとマシなのだろう。

 ──あの希望も絶望もなかった頃に戻るくらいなら、それこそ死んだ方が……

 そんなことを考えながら、校庭を横切ってさらに近道の公園を抜けようと歩みを進めていた時のことだった。

『ミャウーン』

 どこからか鳴き声に呼び止められた。振り返って辺りを見回し声の主を探し求める。すると植込みの陰から、ふたつの小さな瞳が私をじっと見つめていることに気づいた。

「あなた……エイミーなの?」

 辺りに人影がないことを確かめてから、仔猫を驚かせないように、そろそろと植え込みに近寄る。

「どうしたの、こんなところで。何かあったの?」
『ウミャミャミャン』

 いったん姿をあらわした黒の仔猫は、しかしすぐ様きびすを返す。だが何歩か走ってから再び立ち止まり、顔だけをこちらに向ける。まるで『私について来て』と言わんばかりに。

 黒い胸騒ぎを覚える。そうだ、思い出した。確か最初のあの嵐の夜の時も、こうやって私の前に姿をあらわし、彼女の危機を知らせてくれたことを。

 ──まさか。
 ──まさか。
 ──まさかっ!

「ねえ、まどかのところに案内してっ。今すぐに」

 再びエイミーが走り出す。今度は立ち止まる気配はない。懸命に私はその後を追った。

 春雨の冷たさなど、もう気にもならない。

 だって私は魔法少女なのだから。
 とっくに人を捨てたものなのだから。

    ◇  ◆  ◇

 エイミーのあとを追いかけ始めてから、どのくらい時間が経過したのか。いくつかの生け垣を無理やり走り抜けると小さな空間に飛び出した。その中心にあたる所にひときわ巨大な木が立っている。さらにその根元に小さな人影がしゃがみこんでいるのが見えた。

「あれ……ほむら、ちゃん。どうして、ここに?」

 私の足音に気づいたのか、顔を上げた鹿目まどかが、いかにも不思議そうに小首を傾げた。それとほぼ同時に、まるで転がるような勢いでエイミーが彼女の足元に駆け込んでいった。

「道を歩いていたら、その猫が。そういう貴女こそ、こんな所で何をしてるの」
「えっと、その、傘の骨が折れちゃって……しかたなくここで雨宿りをしてたんだけど」

 照れくさそうな笑顔を浮かべながら立ち上がる。手にしたピンク色の傘はすでに原型をとどめていない。おまけに制服や身体のあちこちが泥にまみれ、それはもう酷い有様だった。いったい何をどうすればこんな状態になるのだろうか。

「まさか何かに襲われた、ということではないでしょうね」

 質問を投げかけながら、用心のために辺りの気配をうかがう。ソウルジェムに反応はない。空気にも禍々しいものは感じられないけれど。

「ううん、そういうわけじゃないの。ほら、私ってけっこうドジっぽくて」

 てへへ、と再び笑う。とりあえず危険はなさそうだ。それなら次にやるべきことは何か。

「家まで送ってあげるわ。この傘じゃ少し小さいから、少し濡れてしまうかもしれないけど」
「ううん。だってそんな、悪いよ」
「かまわないわ。私が勝手にそうしたいと思うだけ。遠慮する必要なんかどこにもない」
「でも……」

 虚空に視線をさまよわせ、なんとかして断ろうと懸命に言い訳を考えているようだった。その姿を私は黙って見つめる。そのとてつもなく愛らしい姿を。その足元では、一仕事終えたエイミーが、何事もなかったかのように毛づくろいを始めていた。

 思えば不思議な因縁ではないだろうか。そもそも最初に鹿目まどかが魔法少女になろうと決意したきっかけは、車にはねられたエイミーの命を助けるためだったという。そして最初のワルプルギスの夜の襲来のとき、もしエイミーに出会わなかったら……私は魔法少女になることもなく、そのままこの街ごと消し飛んでいたはずなのだ。

 ──ねえ、エイミー。まさか……

「よ、よろしくお願いします」

 やがて彼女は抵抗をあきらめ、おずおずと私の傘の中へ小さな身体を潜り込ませてきた。

「バイバイ、エイミー。また明日ね」
『ミャウ』

 あたかも十年来の友人のように、私たちと一匹は互いに別れを交わし合う。どこか誇らしげに見えるのは、果たして実際にそう思っているのか、あるいは単なる私の錯覚にすぎないのか。

 ──そうよね。そんなはずはないわ。

    ◇  ◆  ◇

 あえて事情を聞こうとは思わなかった。魔女絡みの問題でなければ、むしろ美樹さやかや志筑仁美に任せた方がいいだろう。この時間軸では、鹿目まどかにとっての私は、つい最近あらわれた得体の知れない転校生にすぎないのだから。私が彼女のことをどれほど想っていようと関係ないことだ。たとえ口にしたところで理解不能。気味悪がられるのが関の山だ。

 だがそれにしても、いったいどれほどの時間、あそこにいたのだろう。彼女の顔色が青ざめているのは、決して鉛色の空のせいだけではない。心なしか小刻みに震えているようにも見える。

「もう少し身体をこちらによせなさい。そんなに離れていては傘をさしている意味がないわ」
「でも、そんなことしたら、ほむらちゃんの制服まで汚れるかもしれないし」

 一瞬だけ迷う。私の手を差し伸べてもいいものか。この穢れ果てた私の手を。

「ひあ……っ!」

 だが迷っている間に自分の身体が勝手に動いていた。強引にまどかの手首を制服の上からつかみ、自分の側に引き寄せる。汚泥の匂いに混じって、かすかな彼女の香りを感じ取っていた。決して忘れることのできない、忘れられるはずのない、その優しげな香りを。

 ひょっとしたら私は正気を失っていたのかもしれない。さらに彼女の腰に手を回し、強引に互いの身体をぴたりと密着させる。

「ほむらちゃん、その……制服、汚れちゃうよ」
「そんなの別にかまわないわ。あとで洗えばすむことだから」

 それにもう、充分過ぎるくらい汚れているから。身も、心も、全て。

「で、でも……」

 やや遅れて、服ごしに冷え切った彼女の存在を感じる。今にも壊れてしまいそうな頼りない身体が、緊張でガチガチに固くなっているのがわかった。そうこうしているうちに、息がかかるほど近くにある彼女の顔が、みるみるうちに朱に染まっていく。

「ちょっと……恥ずかしい、かも」
「その心配はないわ。この雨だもの。誰も見てやしない」

 ウソもいいところだった。だいたい自分の鼓動からして早鐘のように鳴りひびいている。おそらく、まどかも似たようなものに違いない。ほんのりと湯気すら上げ、耳まで紅く染まった顔を見ただけでも、それは明らかだ。

 大丈夫、貴女はまだ人間よ。私と違って。

 春雨は冷たい。
 身も心も凍えさせるほどに。

 だけど、ただ身を寄せ合うだけで、耐えることだってできるのだ。
 ちょうど私とまどかのように。

 やがて本当の春がやってくることさえ、今だけなら信じられそうな気がした。

 たとえこれから何度、失敗を繰り返すことになるとしても。
 今だけなら、もしかしたら、と──。

 (おしまい)



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Author:あっとあとみっく
おもに百合(GL・ガールズラブ)な小説と周辺情報を公開しています。最近はコミPo!でオリジナル百合4コマも。現在は「けいおん!」、「魔法少女まどか☆マギカ」とオリジナル。カプ傾向は澪梓、憂梓、恵和あたり。あと、ほむほむは百合。
このブログはリンクフリーですが、相互リンクはお受けしておりません。ご了承くださいませ。
注:管理人の名称は「あっとあとみっく」が正式ですが、ごくまれに「藍」と名乗ることもあります。

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