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『ノクターン ~夜は優し~』(けいおん頂き物SS)

けいおんのSSを公開します。と言っても、今回は頂き物なのですが。

私がツイッターの方で親しくさせていただいております、
ユリアさん(@Yuriakatase)作の作品で、CPは憂梓…でいいのかな。
梓視点となります。荒野さんの「静む月。」でも公開されてるので、
すでにお読みになられた方もいらっしゃるかも知れないですね。

しかしこれがもう…とにかく素晴らしいのなんの。
自他ともに任ずる憂Loveのユリアさんの手によるものだけあって、
全編に渡って彼女への愛が溢れんばかり。
憂ちゃんのファンであればもう、何をおいても読みふけるべきです。
もう絶対お勧め。私が全身全霊で保障いたします。

今回の作品を拝読して、これはもう一人でも多くの方々に読んでほしいと思い、
ユリアさんにぜひ掲載をとお願いしたところ、無事ご快諾いただきました。
深く感謝いたします。

ざっと内容を紹介しますと…

 高三になって姉が独り立ちして一人実家に残されてしまった憂、
 憂の中に唯の面影を見ながら、それでも想いを受け止めようとする梓、
 そして二人を温かい目で見守る純。そんな彼女たちのある日の心の交流……。

という感じでしょうか。

憂と梓、そして純。
この三人の微妙な関係がそれは絶妙な筆遣いで、
それはそれはもう丁重に表現されているんですよ。
正直、脱帽せざるを得ません。

…などという無粋な解説は不要ですね。
どれほどの作品かは、どうかご自身の目でお確かめください。

ただしかなーり長いです。約26KBほど。かなり読み応えがあります。

ですが、そこの紳士淑女のみなさん、決して損はさせませんよ?w
本当にそれほどの作品なのですから。

なお感想についてはツイッターのユリアさん(@Yuriakatase)宛てに
直接送っていただくか、拍手コメでお願いいたします。
もちろん拍手だけでも大歓迎!

拍手コメの方はちょっと時間がかかると思いますが、
私が責任を持ってユリアさんにお伝えいたします。





それでは、お楽しみくださいませっ!


────

 『ノクターン ~夜は優し~』

────

3年生ともなると試験期間中にも、わずかな隙間ができてくる。
主に選択の都合で、みちみちに詰まっていたはずの時間割に斑ができて、
ぽっかり時間が出来てしまう日があったりする。
当然同じクラスでもその断層はできてくるわけで。
今日は純が「このままじゃ追試か補講確定だー」と叫んだきり、
髪の毛をかきむしるようにして物理Ⅱの問題に悪戦苦闘してるのを横目に、
わたしと憂は解放されてしまった。
試験はもう峠を超えていて、あとは面倒なのは英語のリーディングくらい。
あの先生結構意地が悪いんだ、
選択も全部英文にしてなおかつ引っ掛けをたっぷり用意したり。
きちんと読んでれば間違えたりなんかしないよって憂は笑うけど、
それは憂みたいな常にきちんとしてる子以外にはなかなか難しい話で。

今日はお泊りでお勉強会。
純はジャズ研の子と一緒に物理をジタバタするだけジタバタしてから、
「英語Rは、あとで憂先生に要点聞きにいくからよろしく♪」
というわけで夜になってから来るらしいので。

わたしたちは、どうせわがままフリーダムで
人を振り回すこと確定な純をなだめるためのお菓子とか飲み物とかを予め買い込んで
(常々不思議なんだけど、ムギ先輩がいつも持ってきてたような高額高級品ならさておき、
そこらへんのセルお菓子やペットボトルの飲み物なら、
憂が作ってくれる方が比較にならないくらいおいしいのに。
憂はそういう才能にはずば抜けて恵まれてて、
要領もいい感じで、さっと美味しく楽しめるものを用意してくれるのに、
そういうのを横目にわがままをいうのが純なのだ。
よくいえばマイペース、悪く言えば天邪鬼っていうことなんだろうけど・・・)、
3時には勉強を開始してた。
場所はいつもどおり憂の家(つまり唯先輩の家)。
あいかわらずご両親はあまり寄り付かず、唯先輩もいまは家を出て先代の3人と一緒に寮暮らし。
唯先輩の部屋は空いてしまったので(まだ家具は残ってるけど)、
ベッドだけ撤去してお布団を3枚敷けるようにした上で、
そこがわたしたち3年生3人のパジャマパーティルームになってしまっていた。
唯先輩の残り香もまだ感じはするんだけど、
いまはだいぶわたしたちの空間に変わってきてしまって。
憂が未だに部屋に掛けたままにしている唯先輩の制服と、
私の知らない1年生のときの唯先輩たちの写真、中学校時代の唯先輩と和先輩の卒業写真、かな?が、
もとの主人が誰であるかを残してる。
憂は帰ってきて欲しいのかもしれないと思うんだけど、それを本人は決して語らない。
「わたしは、高校の時のお姉ちゃんに帰ってきて欲しいわけじゃない。
あの制服は、お姉ちゃんがわたしに桜高への進学を決めさせた服だから、まだ残してあるだけだよ」
いつか、憂が言っていたセリフ。
本当かどうかは、教科書を小さくうなづきながら読んで、ノートに書き足しをしている、
わたしの前の憂からは、やっぱり読み取れない。
「どうしたの、梓ちゃん?」
憂が顔を上げて、問いかけてくる。
「あ、ごめん。なんでもない、なんでもないんだ」
反射的に答えて、憂に向いていた視線をあわてて教科書にもどす。
憂をみてると、どうしてもあの人のことを思い出す。
あの人とは、似ていてもやっぱり違うのに。
なんとなく動揺をさとられたくなくて、冷えたお茶に手を伸ばす。
でも。
冷たい水分が喉を潤しても。
目の前で一心に勉強を続ける憂から、目が離せない。
当の憂は、そんなわたしに気がつくふうでもなく、少しづつ作業を前に進めている。
いけないいけない、こんな事でどうする。
わたしももう一度集中しようと、教科書に目を落とし。
でもなんだかやっぱり気になって、面をあげると。
目の前に憂の視線があった。
「梓ちゃん?どうしたの?もしかしてエアコンが弱いとか?」
「へ?・・・いやいや、そんなことないよ?」
どうせ純が来たら「あっつーい!」と叫んで温度を下げること確定な、憂のエアコン設定は28度。
「お姉ちゃんがエアコン弱いから、このくらいが限界なんだ。夜は上を羽織って25度かな」
という憂だけど、以前唯先輩がいた頃にはエアコンなんてめったに使ってなかった。
たぶんわたしに気を使って、入れてくれてるんだろうってことくらいはわかる。
実際、背中のブララインに少しだけ汗の感触はあるけど、
強くしなきゃいけないほどの不快感はない。
だから平気なんだけど、そのはずなんだけど。
涼し気な様子で汗ひとつかかないで。
「本当に?遠慮しなくていいんだよ?」
そう言われると、なんだか暑くなかったはずの頭の中で、汗をかいてくる感触がしてくる。
まるで逆上せたみたいに。
「い、いや、だいじょうぶだから」
そう答えて、思わず後ろに下がろうとして。
座卓の裏側をわたしは思い切り蹴り上げてしまった。
弁慶を打って、目の裏側で光が散る。
声にもならずにのけぞって、憂がきゃ、と小さく声をあげる。
座卓の上に乗っていたグラスがひっくり返る音がわかるけど、声もでないわたしに代わって。
憂が素早くグラスを起こして、こぼれたお茶を拭きとってくれる。
「・・・たたた・・・ごめん、憂」
「いいよ。梓ちゃん大丈夫?」
「わたしはね。・・・あーあ、憂のノートが・・・」
わたしのグラスからこぼれたらしいお茶が、
憂がさっきまで一生懸命扱ってたノートの、未使用の部分の4分の1くらいを浸してしまってた。
わたしのは無事。こういうのってどうして・・・。
「だいじょうぶだよ、代えのノートはあるから」
「でも、弁償しないと・・・」
「いいから。わたしも不注意だったかもしれないし、おあいこ」
「不注意って?」
そう疑問を口に出したわたしに。
「ふふ」
憂は小さく笑った。
「な、なに?」
「梓ちゃん、かわいい」
逆上せた感触が、今度は真剣に一挙に湧き上がる。
「ど、どういうこと?」
「お姉ちゃんが言ってた気持ち、よくわかるな」
そういった憂は。
「ほら、いいから勉強を再開しよう?がんばらないと終わる前に純ちゃんが来ちゃうよ」
そのひとことで、わたしも状況を認識しなおす。
「・・・それはそうだね」
はぐらかされたことはわかるけど。
あとで純にドヤ顔されるのもなんだから、一旦そのへんはおいて作業再開。
だから、わたしは視線の外側でしか認識してなかったみたい。
わたしのお茶に濡れたノートを、水分を抜いた後だったけど。
憂がきゅっと、胸元で抱きしめていたのを。

2時間ほどして、さすがに外が暗くなってきた頃に。
純がやってきて。
・・・ちょっと腹がたつことに、純は応用は苦手な一方で要領がよくて。
英語Rの問題で先生が出していたヒントをもとに、
憂が組み立てていた対策問題をざっとという程度の時間で制圧しちゃった。
わたしが憂に教えてもらっても、問題となると結構首をひねっていたのを横目に。
わたしがじたばたしてるあいだに、「ご飯ー」と騒ぎ出して。
わたしが終わらないうちから憂が作ってくれた晩ご飯に突入させて。
わたしが食後すぐ再開した横から、「おふろー」とまた騒いで。
わたしがどうにか終わらせる頃にさっさとあがって。
で、わたしがお風呂から上がった頃に。
「んじゃねるー」
と一言いって、バタンキュー。
3人分の布団がしいてある唯先輩の部屋で、お気に入りの窓側の布団をさっさと占領して大の字。
わたしがまだ髪の毛を直したりしてる間に、もう高いびき。
全く寝付きの早いやつ。
ちょっと腹がたって鼻を摘んだりもしたんだけど、
このフリーダム娘がそれくらいで目なんか覚ますわけもなくって。

なんだかばかばかしくなったその矢先に。
憂がまだ、下から上がってこないことに気がついて。

わたしは満足じゃー、と言わんばかりの純をおいて、そっと部屋をでた。
まだ片付けしてるのかとおもったら案の定。
「先にシャワーだけすませたから」
そう言ってはにかんだ憂が、洗い物を片付けつつあるとこだった。
手伝おうかなと思ったけれど、シンクの量を見て考えなおす。
もう手を出しても邪魔にしかならないくらいしか、なかったから。
「梓ちゃん、眠れないの?」
憂がそう聞いてくるくらいの時間ではあったんだけど。
「んー、でも憂が上がってこないから」
そう返事をしておく。
「ん、ちょっとまっててね。もうすぐ終わるから」
そういって、最後のグラスをシンクから出して、水気を拭き取り始める憂。
手際いいよね。いつも、ずっとやってきたことだからだろうな。
唯先輩が決してできないわけではないのは、実のところ合宿なんかでみているからわかる。
でも憂の手際をみていたら、手伝う必要は感じない。
任せておいたほうが、たぶん早い。
そして、そのときになって。
憂が食器を片付けながら、小さな鼻歌を歌い出した。
「”U&I”?」
ワンフレーズがおわったところで、わたしは声をかける。
少し顔を赤くした憂が、
「うん」と頷く。
「憂、やっぱり好き?」
”U&I”には思い入れがある。
前軽音部、放課後ティータイムで、わたしが関わった最後の曲だから。
ひと通りCDアルバム1枚分、12曲を作ってた放課後ティータイムの、
員数外になった「あれ」以外で最後の曲。
作曲にも一応だけどかんでる。この曲は積極的にそうしたかった。
だって、憂の曲だから。
「大好きだよ。お姉ちゃんの詩と、紬さんと梓ちゃんの曲だもん」
そう、”U&I”は澪先輩があまり関わってない。
澪先輩がロミオ役でへとへとになってたこともあるんだけど、
どうやってか時間を作ってたムギ先輩と一緒に、超速で作った曲。
スケッチみたいなものはもともとムギ先輩にあったみたいなんだけど、
それにしても速攻だった。
マスターデータができるまで、2人がかりで、たった2日。
でも。
この曲がわたしたちの、「ふわふわ時間」を継ぐ曲になったのも間違い無いと思う。
「ぴゅあぴゅあはーと」も曲としてはたぶん並ぶんだけど、
ムギ先輩がすごく透明な笑顔を、徹夜明けのムギ先輩の部屋で向けていたのも覚えてる。
そのくらい、わたしたちにとって大事な曲。
憂は実質、放課後ティータイムの6人目。
憂がいなければ、唯先輩の実力はどこまで浮かんできたかはわからない。
それは、憂には言わないでいままできたけど、わたしたち5人の総意でもあったから。
・・・そして。
「”U&I”はわたしへの、お姉ちゃんのラブレター。
こんなにすてきなことはないよね。
梓ちゃんに、”天使にふれたよ”があるように、
放課後ティータイムが、あのすごい才能と優しい個性のひとたちが、
わたしたちふたりのためだけに残してくれた曲。
いずれは誰かのものにもなるとしても、わたしたちが真の受け取り手であることは変わらない。
たとえば、「CLOUDY HERAT」が、
氷室京介さんの、一緒に住んでいたひとへの永遠の慟哭と謝罪であるみたいに」
「・・・」
「そうなんだ。わたしたちは本当に愛されてる。あのすごいひとたちから」
「憂。でも」
「わたしたちのバンド。おんなじことができるのかな」
「・・・そうだね」
律先輩と唯先輩から申し渡されたこと。
「放課後ティータイムの名前はもらっていくよ。
梓は来年、自分だけのバンドを作ってみせてくれな。
もちろん憂ちゃんや純ちゃんがいてもかまわない。
放課後ティータイムの曲を使ってもいい。だけどひとつだけ課題。
梓がつくったバンドで、オリジナルを聴かせてくれ」
これがすごく重い課題だということは、わかってる。
作曲は直ができることはわかった。
実際もう4曲ばかり作ったらしい。
最初はどうしようこの子、だったのに、いまじゃ直の能力は軽音部に不可欠。
うち2曲はもう練習を始められるところまできた。
1年目、たった2曲しかなかった放課後ティータイム(当時はまだ名前なかったんだけど)より、
その点では先に進んでるともいえるくらい。
「問題は、詩だよね」
「・・・うん」
実は詩が先に進んでいない。詩はわたしがなしくずしに書くことになってるんだけど。
「やっぱりわたしには、唯先輩や澪先輩みたいな才能はないみたい」
そう宙を仰ぐしかなかった。
問題のもう一つは、直が創る曲がわりとハードめで、
わたしがなんとかして書いている詩とはいまひとつ相性がわるいのもあるんだけど。
それと、実は重大な問題。
わたしが楽器を弾きながら歌えないこと。
そして、声は憂のほうが断然きれいなこと。
「本当は、憂が詩を書いてくれたほうがいいのかもしれない」
「うん、一応書こうとはしてる。けどやっぱり難しいよね」
「そうなんだよね」
ふたりで顔を見合わせて、どちらからともなく笑う。
「いまになって考えてみると、本当にわたしって愛されてたし守られてたと思う」
「梓ちゃんが?」
「うん。わたしは先輩たちがだらだらしてるのが最初は許せなかった。
あんなにすごい才能なのに、あんなに素敵なグルーブを持ってるのに、
いつもはお茶のんでだらだらおしゃべりしてるばっかりで。
わたしは先輩たちと一緒に演奏して、先輩たちの輪にはいりたかったのに」
「うん」
「でもほんとうは違ってた。
先輩たちはただ単にすごく喜んでくれただけだった。
自分たちを慕ってくれるひとがいた、ってことに。それが最初のボタンの掛け違い」
「うん」
「そして、それが間違いだって澪先輩が最初に気がついてくれて。
律先輩も距離を縮めてくれて。
ムギ先輩はちょっとなかなか距離感取りづらかったけど、
実はあったかくてとても優しい人だってやがてわかって」
「・・・そして」
「うん、唯先輩。
最初はいちばんわからなかったし、ごめん、この人大丈夫かなって本当はいつも思ってた。
甘ったれだし泣き虫だし、けっこうわがままだし、一番練習しないように見えてたし。
それが間違いだってわかったのは合宿のとき。
実はみんなといるときはみんなと遊びたいだけで、
影ではしっかり練習して、みんなに追いつこうとちゃんと頑張る人だってわかった、とき」
「うん。お姉ちゃんはそういうひとだよ。わたしの前では結構いつも練習してるもん」
「・・・それが」
「うん?」
「唯先輩の、ちょっとふしぎなところ。
本当は、唯先輩は、本当に落ち着ける人のそばでしか練習しないのかな、
っていう仮説をたてたくなったくらい」
「・・・うん」
「わたしはそう考えたとき、実は結構うれしかった。
唯先輩はわたしを信頼してくれてる。わたし・・・だけを」
「梓ちゃん」
「そうだよ。
わたし唯先輩が好きなんだよ。
唯先輩に抱きつかれるの好きだもん。
唯先輩がそばにいると、いつも本当は心が暖かくなってた。
澪先輩も律先輩もムギ先輩も大好き。みんな優しくてあったかくて思いやりもあって。
でも、わたしには唯先輩が一番だった。
一番な・・・はずだった」
なんで留保をつけちゃったのか、わたしが一瞬躊躇したとき。
「梓ちゃん」
いつのまにか片付けをすっかり終えていた憂が。
わたしの胸に飛び込んできた。
とっさに踏ん張って、大きくよろけるけどなんとか倒れこむのだけは防ぐ。
憂の重さが、きついけど心地いい。
そっか。憂、唯先輩より少し重いのか。
唯先輩より、女らしいところが豊かな分。
ムギ先輩よりは・・・それでも軽いかもしれないけど。
・・・って、何考えてるんだわたし。


憂が泣いているのに。


「ごめんね梓ちゃん、いまだけはこうさせて。今日が終わったら、忘れてもいいから」
「憂・・・」
憂はわたしに泣き顔を隠さなかった。
すがるようにわたしを上目遣いで見つめて、綺麗な涙をポロポロとこぼし続けてる。
涙の色は・・・唯先輩と同じだ。

わたし・・・最低だ。
そうだった。
憂は、唯先輩のことが好きなんだ。
姉妹として、だけでなく。

「わたし、最初は梓ちゃんのことがわからなかった。
お姉ちゃんたちに失望した様子でぼんやりしてた最初のとき、
どうしてお姉ちゃんたちのいいところをわかってもらえないんだろうって。
でもそれはすぐに間違いだって分かった。
お姉ちゃんが、帰ってくる度に、かならず梓ちゃんのことを話してたから。
いつもいつも最後にいうんだ、あずにゃん、かわいいんだー、って」
「うん・・・」
「そしてわたしにはもうひとつわからないことがあった。
どうして自分は軽音部に入らなかったんだろうって。
それはそのときにはこう納得していた。家をわたしが守らないといけないからって。
梓ちゃんがいる以上、わたしが軽音部に、無理に居場所を探す必要はないって」
「・・・うん」
「だけどそんなの間違いだった。
お姉ちゃんが梓ちゃんを褒めるたび、かわいがってるのを感じるたび、
嫉妬じゃなかった、でも、ただ哀しかった。
わたしはどうしてそこにいけないんだろう、
わたしはどうして、一緒にいることができないんだろうって」
「・・・」
「理由がわからないまま、悶々としてた時期もあった。
それが融けたのは1年生の学園祭。
お姉ちゃんが風邪引いて倒れたとき。わたしはお姉ちゃんの振りをしてみた。
お姉ちゃんになりきれば、わたしがどうして悩んでいたのかわかるかな、って」
「・・・」
「でもわからなかった。
自分の演奏がお姉ちゃんよりも上手いとほめられても、
律さんなんてひどいから、お姉ちゃんの代わりにはいってもらうかなんて冗談を言われても、
少しも心はときめかなかった。
結論。わたしの居場所はここじゃない。ここはお姉ちゃんが、いなければいけない場所なんだ」
「・・・憂」
「それはすぐに確信になった。
遅刻したお姉ちゃんが加わった瞬間、一気に放課後ティータイムはキラキラ輝きだした。
純ちゃんも言っていた、この人達、ほんとうにすごいんだって。
いまだからいうよ、純ちゃんはかなり悩んでもいたみたい。
ジャズ研にいるか、軽音部に移るか、で」
「そんなころから・・・だったんだ」
「そうだよ。
一度は澪先輩がいる以上、わたしは軽音部では芽がでない。
だからジャズ研でがんばるって。
でも梓ちゃんがこのままでは一人になるって気がついた去年の夏頃から、
また考えが変わったみたい。
梓が一人になるなら、わたしは梓を助けたい、梓と一緒に演奏したい、って」
「・・・純のやつ」
なんとなくわかってはいたつもりだった。
純はそういうやつだ。突っ張る相手と甘える相手をちゃんと見分けて、使い分ける。
だから憂には、少しだけ優しくしてたんだ。
「でも、純ちゃんの気持ちとは別に。わたしは梓ちゃんのことを・・・好きになってきてた。
お姉ちゃんが大好きな、梓ちゃんのことを」
「・・・どうして」
「決まってるじゃない。
お姉ちゃんをわたしは大好き。
生まれた時から仲良しでいたかった。
お姉ちゃんはわたしのすべてだった。
空が広いのも、
地面が輝くのも、
星が綺麗なのも、
お菓子が美味しいのも、
そしてお姉ちゃんが温かいのも。
ぜんぶ、お姉ちゃんが教えてくれたんだ」
「・・・」
「わたしはいまでもお姉ちゃんが大好き。
いまでもお姉ちゃんに帰ってきてほしい。
お姉ちゃんのご飯を作りたい。
お姉ちゃんの服を洗濯したい。
お姉ちゃんと一緒にギターの練習をしたい。
お姉ちゃんと一緒に眠りたい。
お姉ちゃんの寝息を聞いていたい。
・・・そして、お姉ちゃんに、わたしのすべてをみてほしい。
お姉ちゃんに、わたしを、抱いてほしい」
「・・・憂」
「でもそれは叶わない。
お姉ちゃんはいまは側にいない。
わたしを見捨てたわけじゃない。
これは、お姉ちゃんがわたしの少し前を歩いているから、そんなことはわかってる。
でも。いま、お姉ちゃんはここにいない」
「・・・」
知らず、憂を抱きとめている腕に力がはいるのを感じる。
「そして、お姉ちゃんはわたしだけをみている人じゃない。
それも、わかる。お姉ちゃんには、梓ちゃんがいる」
「憂」
「責めてなんかいない。お姉ちゃんと梓ちゃんが一緒に仲良くしてるのはすごくうれしい。
ふたりが幸せならわたしも幸せ。それは少しも、嘘じゃない。
でもどうして、わたしがそこにいちゃいけないんだろう。
わたしがそばにいたままでは、お姉ちゃんと梓ちゃんが、
幸せになれないんじゃないかって、やっぱりずっと考えてた。
でも結論はただひとつ。
例えそうだとしても、わたしがふたりを、好きな事をとめることはできない。
好きでいることをやめることはできない。
わたしは、つまるところ、ふたりとも欲しいんだ、って」
「欲張りだね、憂は」
つい、口に出してしまった。
それは、皮肉でも何でもなく。
わたしが、憂と同じだから。
憂と唯先輩を、どちらも好きだから。
そして。唯先輩が、ここにいないから。
わたしはもうひとつ、ある気持ちに気づいてもいる。
ムギ先輩が、ひとつ秘めている思いがあることを。
そしてそれが、誰に向いているかも。
ムギ先輩は決してそれを語らない。たぶんずっと封じたままだとも思う。
でも本当は。放課後ティータイムの曲のほとんどが、実は。
そしてわたしと澪先輩だけが知っている、隠されたままのあの曲が。
本当は、唯先輩に向けられたものだってことを。
「うん、わたしはよくばり。わたしはいい子なんかじゃない。
でもそれが、ほんとうのわたし」
「うん」
「梓ちゃん。こんなわたしを好きになってなんて言えない。
好きになってもらうのがすごくむずかしいこともわかる。でも、わたし・・・」
「もう、言わなくていいから」
「・・・梓、ちゃん」
どこか恐怖と絶望を落とし込んだ憂の顔の。
涙をまず拭ってから。
「憂は、それでも、わたしと唯先輩が好きなんだよね」
「・・・うん」
「責めないよ、それは」
わたしは、不意にひとつだけ覚悟をきめていた。
それでも、憂に問わなければいけないこと。
ただ後になって思うと、ちょっと聞き方はまずかったかもしれない。
「でも唯先輩が、わたしたちふたりを同時に受け入れられるかな?」
はっとなって、憂が身体を硬くするのがわかる。
このときにわたしは間違いに気がついてた。
でももう、引込みがつかなくなった。
「唯先輩は、いつも憂のことを気にかけてた。
いつもいつも。合宿の練習の時も、みんなとおしゃべりしてる時も。
わたしとふたりっきりの時も。
憂がどうしてるか、それをいつもどこかで気にしてる風だった」
「・・・うん」
「唯先輩に対する気持ちが恋心だって気づいたあたりから、
それはやっぱりわたしのなかで未整理な気持ちになるしかなかった。
唯先輩が、やっぱり一番好きなのは憂なんじゃないかって。
わたしがどんなに好きになっても、憂のことを唯先輩は忘れない。
それが人間として、家族としてのものなのか、
わたしにもしかして向けてくれてるかもしれない感情とおなじベクトルのものなのか。
でもそれを、まさか唯先輩には訊けなかった。
唯先輩はピュアだから。いいか悪いかは関係なく、そういうひと、だから」
「うん」
「だからいまでもそれはわからない。
もしかしたら唯先輩は家族として、姉妹として、わたしを愛してるのかもしれない。
かなり長い期間悩んだし、大学で毎日メール送ってくれるいまでも、
唯先輩は、「大好き」とは言ってくれても、
「愛してる」とは返してくれない。
わたしはときどき、「唯先輩、愛してます。大好きです」って送ってるのに」
「・・・うん」
「でもそれ自体は割り切れる。
唯先輩が最後に振り向いたときに、わたしがいればいいって。
結婚とかそういう無茶はいえない。いうつもりもない。
ただ、わたしが追いかけていけばいい。わたしはそう、思ってる」
「・・・」
「でもそれが唯先輩にとって重荷になるのはいやだ。
唯先輩にだって選択の自由はあるんだ。
だからこそ、憂に対しても割り切れないものを抱えてた。
唯先輩がだめなら、憂を好きになってもいいのかもしれない。でも・・・」
その瞬間、目の裏で光が舞った。
憂が、わたしの頬を張り飛ばしたからだ。
「姉妹だからいうわけじゃない。
でも梓ちゃん、
わたしがどんな気持ちでお姉ちゃんと梓ちゃんのことを見ていたかもわかる、よね」
「・・・」
さすがに打たれた頬は痛い。備えがなかったから、たぶん少しだけど、血の味も感じた。
その不快感に耐えているわたしに。
「お姉ちゃんの代わりにはなれない。わたしは、お姉ちゃんと同じ人じゃない。
わたしにお姉ちゃんを求められても、それは困る。
わたしにとって、梓ちゃんは梓ちゃんであるように、
わたしはお姉ちゃんじゃない。
梓ちゃんにも、お姉ちゃんを好きでいる梓ちゃんに、わたしを愛して欲しい」
憂にしてははっきりしない気がする言い方だけど、たしかにそれはそうだった。
「梓ちゃん。わたしがわがままを言ってるのはわかってる。
わたしがほんとうは少しおかしいことも。でも・・・」
また震えだす憂。
ああ、もう。
やっぱりこれ以上、憂を泣かせちゃいけない。
憂はそういう子なんだ。
唯先輩より、少しだけ思慮深くて。
唯先輩より、少しだけ・・・
考えていても、もうだめだ。
「憂」
わたしはもういちど、わたしの中で泣き顔になっている憂の。
おとがいを、すこしだけ持ち上げた。
もう覚悟はきまった。
わたしは、この姉妹に囚われてしまったんだ。
でもそれでいい。
いまは。
茫然とされるがままに、わたしのほうを上目から真っ直ぐ見る視線にかわった憂の。
唇を、わたしは塞いだ。

憂は抵抗しなかった。
憂の唇は、予想していたとおり、たぶん唯先輩より少しだけ肉が厚くて。
そのぶん、柔らかかった。
やがて、おずおずと入ってくる憂の舌を。
わたしは吸い取り、ゆっくりと絡め合った。
マンガや小説でしか、触れたことのない行為。
でも、わたしは見よう見まねにもなっていないだろうけど。
憂に応えたくて、半ば自然にそうしてた。

「憂」
かなり長い時間だったかもしれない。
そんなに長くはなかったのかもしれない。それはわからない。
でも、息をついて、自然に顔が離れるのを待ったそのとき。
もう、憂は泣いていなかった。

「梓ちゃん」
憂がそう、言ってくる。
わたしの腕の中にいる、もうひとりの愛しいひと。
「うん」
「ごめんね。叩いちゃって」
「いいよ」
ようやく、憂は倒れこんだままの状態から身体を起こして、ちゃんと立った。
本当は、倒れこんだままでも良かったんだけど。
でも憂の身体の重さから解放された肉体が、自然に伸びの姿勢に入ったとき。
わたしの腕の中に、憂がもう一度収まった。
今度はまっすぐ、わたしを、対等に抱きしめる。
憂のほうが、ちんちくりんなわたしより少しだけ背が高い。
ちょっとそれが不快になるわたしに、憂は笑った。
「わたし、梓ちゃんを好きになれてよかった」
「憂。唯先輩といっしょに、憂がいてくれてよかった」
わたしもそう答えた。
憂だからこそ、そばにいてほしい。
憂だからこそ、そばにいてくれる。
それでいいじゃない。
「なにかが急に変わるわけじゃない。
わたしたちがそのままでいてもいい。
でも、梓ちゃんは、きょうからわたしのだよ」
「憂こそ、わたしでいいの?」
「そんなの、言うまでもないよ」
憂はそう言って、わたしのことを強く抱いた。
思ってたより、その力は強い。
「梓ちゃん。これからよろしくね」
「憂こそ、こんなわたしを選んでくれてありがとう」
ふふっ。やっぱり頬は緩んでしまう。
いつか止まっていた血の味が口の中で洗い流され。
憂の暖かさだけがわたしの全てになる。
いまは唯先輩がいない。
でも憂がいる。
そうだよ。わたしたちふたりで。
唯先輩をひきこんだってかまわないんだ。
ふたりがかりで、唯先輩を捕まえてしまっても。
唯先輩の大事ななにかが、変わるわけじゃない。

「憂」
「梓ちゃん」

わたしはちゃんづけが、決して本当は好きじゃない。
いつまでも目上視線で接されることに、内心やっぱりイラつくことはある。
でも、この姉妹にだけは。先輩方とさわ子先生も加えてもいいけど。
ちゃんづけにされてもかまわない。
実はちゃんづけであっても。
わたしを対等だって、認めてくれた上での。
愛情をこめた「ちゃん」だから。

そして。なんとなくそうなんじゃないかって覚悟はしていたんだけど。
「いや、やっぱり女同士でもキスはキスだねぇ。見ててやっぱりドキドキはしたよ」
「・・・純」
「起きて、たんだ」
そりゃあ、ね。
「実際何か予感めいたものはあったんだ。
憂はなんか少し上の空だし、梓は梓でなにか考えてぼーっとしてるふうだったし、
で、お互いに視線があうとなんかギクシャクもしてたしさ。
唯先輩のことがあるから、たぶんそうだろうって当たりはつけてたんだけどさ。
寝たふりをして時間をつくればもしかしたら、と考えて大正解!」
「・・・純」
「おおっと、怒らない怒らない。
あたしは応援してるしさ。
なんだかんだ言ったって、ふたりがちゃんと落ち着いてくれないと今年の軽音部は動かない。
あたしは男の子の方が恋愛対象だけどさ。
ふたりがそうでない自由はあってあったりまえだとおもってるし。
むしろほっとしてるよ。唯先輩がいるからギクシャクしてたんだろうし」
「・・・純ちゃん」
「ま、ほんと、きちんと収まってくれたならなによりだね。
あたしはもういっかい言うけど、応援してる。
唯先輩をいずれ引き入れるにしても、ふたりで手を取り合うにしても、
仲良くしてるふたりを見ていきたいからさ。
繋いだ手、しっかり握っててくれてよね。
そしてさ、もし一緒になるなら、そのときは真っ先にあたしにも伝えてね。
幸せにしてるとこ邪魔しにいってあげるから、さ」
ニヘラ、としか言いようのない笑顔を、純はわたしたちにむける。
「愛情はふたり、おっといけない、その場にいるひとだけのもの。
でもそれだけじゃ人は生きていけない。
でもそれが守られようとしてるものであるならさ、守ってあげたいんだ、あたしは。
だから相談事とかはちゃんと言ってくれよな。
で、せいぜいイチャイチャしてよね。そうでないと、からかいがいもないし」
こら、とは口に出したけど。
わたしは嬉しかった。
わかってくれるひとはちゃんといた。しかもこんなに近くに。
そうだ、たしかに。
手を取り合った現場を見て、不幸になれっていえるひとはほんとうはそんなに多くはない。
みんながみんなそうでないとしても、わかってくれるひとはかならずいる。
応援してくれるなら、なおのこと。
純がいてくれてよかったと、本心から思う。
「純ちゃん、ありがとう」
「あいよっ。憂、梓と一緒にいてくれよな。本当に頼んだよ」
「純」
「憂は女の子なんだから、ちゃんと梓が守ってやらないとだめだぞ」
「なんなのよそれは・・・わたしだって女だよ」
「怒るな怒るな」
まあ、それでもいいか。
少しだけ、前に進んだんだから。
そっと、憂がわたしの右手をとる。
「梓ちゃんの手、やっぱり硬いね」
「まあ、むったんをずっと弾いてきたからね」
「わたしも、いつか梓ちゃんのとなりで、堂々とギターを弾きたいな」
「もう今だって大丈夫じゃん?」
実際、憂はギターがとてつもなく上手い。
テクニックだけだったら、もう完全に背中に迫ってるのを感じてる。
「ううん。いまはまだみんなに乗せてもらってるだけ。
梓ちゃんと純ちゃんのメロディとコードに、間借りみたいにすわってるだけだよ。
いつかは自分もちゃんと絡めるようになりたい。だから、そのときまで、よろしくね」
ああ。
こんな子が、わたしを選んでくれるなんて。
それがすごくうれしい。
「待ってるよ、憂」
そして、ようやく。
わたしは自分のバンドを、持てたと思った。
菫がいる。直もいる。
きっと5人なら。
あの時の5人に、いつか追いつける。
そして、そのふたつのグループに。
わたしがいることが。
いまはとても、誇らしかった。



このとっても素晴らしいSSを公開されたユリアさんに心からの敬意と拍手を。
次回作は…あなたの拍手にかかってるかもですよ?ww

注:作中で登場する「直」「菫」というのは、きららキャロットで連載中の
「けいおん!」憂梓純組で登場している新入部員です。
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おもに百合(GL・ガールズラブ)な小説と周辺情報を公開しています。最近はコミPo!でオリジナル百合4コマも。現在は「けいおん!」、「魔法少女まどか☆マギカ」とオリジナル。カプ傾向は澪梓、憂梓、恵和あたり。あと、ほむほむは百合。
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注:管理人の名称は「あっとあとみっく」が正式ですが、ごくまれに「藍」と名乗ることもあります。

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