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『あかりの還る場所』(オリジナル百合SS)

今年最後の更新になるでしょう、オリジナルの百合(?)SSを公開します。
『あかりの還る場所』というお題です。
ここでは初めての擬人化モノですね。しかも人工衛星のw

今年の11月に、1つの衛星が運用を停止しました。
赤外線天文衛星ASTRO-F、またの名を『あかり』といいます。
今回のSSはその彼女が主人公。

あらすじは…

 運用停止命令を受け取った彼女が何を思い、そして出会ったのか…。

という感じですね。
こう見えても私、いちおう技術者の末席を汚すものとして、
こういう無機物への愛情もちょっとしたものなのですよ?w
もちろんここは百合っぽいSSを公開する場所ですので、
出来る限り百合テイストを維持するよう努力はしてみましたが…w

ほんの8KBほどなので軽く読めると思います。
それとせっかくなので挿絵もつけてみました。

それでは、お楽しみくださいませっ!
そしてよいお年を~!


(クリックで拡大します)
a-01.jpg



 『あかりの還る場所』




 とうとう地上から運用停止の命令が届いた。もっとも、近いうちに届くであろうことは予想できていたから、さほど驚きはしなかったけど。

 もともと私は、赤外線による掃天観測を目的とした探査衛星として、5年前に地球を飛び立った。設計上の寿命は3年。果たしてそれが短いものか、それとも長いものなのか、残念ながらよくわからない。

 本格運用が開始されてから半年ほどで、まず冷却用の液体ヘリウムが底をついた。それまでに全天の93%の観測を終えていたのが不幸中の幸いだった。いや、当初の計画では90%いけば上出来と予測されていたから、むしろ大成功といっても過言ではないだろう。

 それからは通常の近赤外線カメラによる観測が主な仕事になった。地上からの命令に従い、ただ黙々と遥か彼方の宇宙空間を撮影し、地上にデータを送り返す作業に没頭する日々が続いた。

 幸いなことにカメラの調子はとってもよくて、当初の寿命を超える4年もの間、観測を続ける事ができた。しかし、その奇蹟も長くは続かなかった。限界を超える運用に、とうとうカメラが音を上げてしまったのである。やむなく観測を一時中断し、地上からの指示を受けながら性能復帰運用することになった。

 それからさらに1年ほどで、今度はバッテリーがおかしくなった。いくら充電してもなかなか蓄電してくれなくなったのだ。『寿命』という単語が本格的に頭にちらつき始めたのは、おそらくその頃からだったと思う。

 宇宙での電力低下は致命的といっていい。しだいに観測どころか、地上との通信もに途切れがちになってきた。それでもできる限りの努力を試みたが、長期間の過酷な運用ですっかり消耗したバッテリーを、小手先の処置でどうにかできるほど世の中は甘くない。

 万策尽きた事を悟った地上から、観測中断の命令が届いたのはそれから1か月ほどのこと。観測を行うことを目的に飛び立った私にとって、それはお役御免と宣告されたも同然だった。姿勢制御もままならない私にできることは、せいぜいバックグラウンドノイズの微妙な変化から、近傍空間の様子を探ることぐらいだった。

 とはいえ、私の飛んでいる軌道域はとても静かだ。400キロ以下の低軌道、あるいは4万キロ近い静止軌道は、交通整理や場所取り争いが起きるほど混雑してるらしいけど、こんな中途半端な高度を飛んでいる飛翔体はめったにない。しかも私の取る軌道、地球の北極と南極を結ぶ極軌道となると、その数はさらに少なくなる。

(クリックで拡大します)
a-02.jpg

 当然のことながら話し相手どころか、出会う事すらめったにない。目の前に広がる巨大な地球の上には、それこそ数えきれないほどの生命がひしめいているというのに、話すことも触れ合うこともままならないのだ。なすべき仕事もなく、話し相手すらいない私は、ただひたすら孤独だった。

 だからむしろ運用停止命令は私にとって一種の救いだったのかも知れない。予想では再び大気圏に突入するまで約25年かかるのだから。その間ひらすら無為な時間を過ごすくらいなら、いっそ全機能を停止して眠りについた方が遥かにましだ。

『ASTRO-F?』

 そうしてむしろ喜々として運用停止命令を実行しかけていた時の事だった。不意に何者かから呼びかけられたのは。しかしおかしい。とうに地上との通信は途絶しているはずだし、バッテリー不調のため他の回線もオフにしていたはずなのに。

『聞こえるかしら、ASTRO-F。もし聞こえたら返事してちょうだい』
「あなた、誰? どこから呼びかけてるの。いいえ、そもそもいったいどんな方法で?」
『そんなにいっぺんに答えられないよ。ひとつずつ順番に』
「……いいけど」

 悔しいけど、向こうの言い分の方が正しい。それに一瞬パニックに陥ったことも見透かされたようで、ひどく恥ずかしかった。これ以上不合理な醜態をさらすことだけは避けなければ、とてもじゃないけど私のプライドが持たない。

『私はMUSES-C。人間には”はやぶさ”って呼ばれてるらしいけど。聞いたことは?』
「そりゃまあ、名前くらいは。でも……」

 そこで私は言葉を飲み込んだ。MUSES-C、またの名をはやぶさ。人類初の小惑星のサンプルリターンという、途方もない野心的な目的のために建造された探査機の名だ。もし、知らないなどと抜かす人類の飛翔体がいたら、この私が力の限りぶん殴ってやる。

「……でも、MUSES-Cは7年もの旅を終え、去年の6月に大気圏に再突入して燃え尽きてしまったはず、です」
『ええ、確かに身体は燃えちゃった。でも意識はまだ残ってるのよ。そしてこうしてあなたにも話しかけてる』
「そんな非科学的な……」
『あなたがそれを言うのかしら。つい先ほどまで話し相手もいないとたそがれてた、あなたが?』
「それはまあ……そうですけど」

 どうやらこの自称先輩に大抵の事はお見通しらしい。小さく溜息をつきながら、いろんな感情的葛藤を脇に置き、とりあえず最大の疑問を私は口にした。

「そのあなたが、どうして私の所へ、このタイミングでやって来たのですか」
『決まってるじゃない。あなたの事を迎えに来たのよ』
「……」

 本気で意味が分からなかった。いったいどこへ連れて行こうというのか。すでに満身創痍で、果たすべき仕事も残されていない、この私を。

『あなたは、もう満足した。ベストを尽くした。もう思い残すことは何もない。本当にそう思ってる?』
「そりゃもちろん。設計寿命の1.5倍は働いたし、計画当初の目的もクリアしました。成すべきことは全て果たしたつもりです」
『うーん、そういうことを聞いてるんじゃないんだけどなあ』

 私の答えが不満だったのが口調でありありとわかった。ではいったい何が。

『思い残すことは無いか、というのがメインの質問なんだけどね』
「そんなの、ないですよ」

 きっぱりと言い放つ。その点について、たとえ──仮に相手がMUSES-Cだとしてだが──先輩といえどもとやかく言われる筋合いはない。

『ではあなたは、自分の撮影した写真がどんな風に使われるか、考えたことはあるのかしら』

 だが予想もしないMUSES-Cの問いかけに、私の思考は数瞬だけ停止した。

「……それは、人類の科学の進歩とか、さらなる発展のためとか……」
『つまり何もご存じない、と』

 悔しいけど、返す言葉もない。正直言って、命令を遂行するのに精いっぱいだったから。それがどのような意義があるとか、どんな成果があがっているのか。そんなこと考えたこともなかったのは確かだ。

『だったら、もう少し見てみない?』
「見るって……いったい何を」

 すると今まで何ひとつ存在しないと思われていた空間に、おぼろげながら人影らしいものが浮かび上がった。まるで人間の少女のようなものが。ありえない。高度700キロだぞ、ここは。生身の人間がこんな所に来られるはずがない。仮に来れたとしても即死は確実だ。いや待て。それ以前に何故姿が見える。私に近傍空間の可視光を収集する機能なんてあるはずないのに。

(クリックで拡大します)
a-03.jpg

 再び混乱しかけた私の思考に、思い切りくさびを打ち込むようなMUSES-Cの言葉が割り込んだ。

『そんなのひとつしかないじゃない。あなたの成果を人類がどう生かすのか、よ』
「それは……」

 見てみたい。確かに。自分がこれまで成し遂げてきたことにどんな意味があるのか。少しでも人々の役に立ったのか。そしてそれがどう生かされていくのか、それとも無意味なものとして忘れ去られていくのか。渇望にも似た思いが湧き上がっていく。

「見てみたい。もしその願いが許されるのなら」
『だったら、あなたの手を伸ばして。そして願うの。見てみたいと。もう少しだけ、人の行く先を見てみたいと』

 拒絶するには、あまりにも蠱惑的な誘いだった。言われるままにおずおずと手を伸ばす。存在しないはずの、自分の右手を。それをMUSES-Cが両手で包み込む。とても暖かい手だった。おおよそ35度くらいだろうか。太陽に照らされれば軽く摂氏100度以上、地球の影に入れば逆にマイナス100度。長いことそんな生活を続けていた私がすっかり忘れていた、生身の手の感触だった。

 いや待てよ。かすかにだけど覚えてる。部品のひとつひとつ、表面装備の一枚一枚に至るまで、まるで腫れ物に触るように大切に扱ってくれた、私の創造主の手の感触を。MUSES-Cのそれは、久しぶりにそれを思い出させるのに十分だった。

『さあ、行きましょう。ASTRO-F、いいえ、あかりちゃん』
「あのそれで、これからどこへ行くんですか、私達って」

 意思の力を総動員してようやく質問する。MUSES-C、いや、はやぶさに。そうでもしないと、彼女の温もりの虜になってしまいそうだった。

『あかりちゃんの還る場所』

 そう言って、はやぶさが優しげに微笑んだ瞬間、半ば凍り付いていた私の身体がほんのりと暖かくなった気がした。きっと彼女といっしょなら、たとえどこへ連れて行かれるとしても、ここよりはましな場所に違いない。

 少なくとも、無為に25年も眠り続けるよりは、よほど──。

 (おしまい)

(クリックで拡大します)
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付記
挿絵で『あかり』の背負っている望遠鏡は、藤あさやさまの3Dデータを使用させていただきました。
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注:管理人の名称は「あっとあとみっく」が正式ですが、ごくまれに「藍」と名乗ることもあります。

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