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『ヘフティヒ・ヘルチヒ』(けいおん頂き物SS)

けいおんのSSを公開します。と言っても、今回は頂き物なのですが。

私がツイッターの方で親しくさせていただいております、
ユリアさん(@Yuriakatase)作の作品で、
『ヘフティヒ・ヘルチヒ(激しく乱暴に、心を込めて愛らしい)』というお題。
律視点で律澪な内容です。

いやもう特濃の百合ですよね、これは。
そういうのが苦手な方は即刻ブラウザバックをお願いいたします。

律と澪という幼なじみはある意味王道ですが、さすがはユリアさん。
それだけに留まらないポイントを突いていらっしゃいます。
私もこれを読了してから、しばらく考え込んでしまったくらい。
何に考え込んでしまったかを解説するとネタバレ必須なため、
ここでは書きませんが…。

それと今回のSSは、ウィザードリィというゲームの
クロスオーバー要素も含んでおります。
ゲーム未プレイの方にはときたま見慣れない名称が登場するかもですが、
本筋にはあまり影響はないと思います。
まあそういうものだとスルーしていただければw

もしこのSSを読まれて「けいおんウィズ」に興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、
本編が「TRAFFIC JAM」というサイトで連載されております。
ぜひぜひそちらもお立ち寄りください。
そこの「SS投稿掲示板」という所に掲載されてますので。

なお、ユリアさんには以前も『ノクターン ~夜は優し~』
というけいおんSSを頂いて掲載しております。
こちらは梓視点で憂梓なSSです。

もしご興味がありましたら、こちらも合わせてどうぞ~♪


heftig,herzig




ホントのところ、澪には話せるようなことじゃない。
澪に限らずだけど、「昏倒」という状態はマジで怖い。
自分の意識が無くなりそうになるのが怖い。
何もつかめず、何も動かせず、ただそこに佇んでいるだけの状態。
声や視界は生きているんだけど、
それもなんだか変なブレやエコーがかかったような感じになって、
自分を保とうと努力しないとそれさえもすぐに消え失せそうになる。
痛みとかは遮断されてしまうのか何も感じないけど、
それだけに自分が、「自分」をどうにかして感じていないと、
すぐに自分が消えてしまいそうな、2度と帰って来られないような、
そんな恐怖にまとわりつかれるあの状態。
ムギやさわ子先生は経験者になっちまったから、お互いに話したことはあるんだけど、
ムギはひたすら、みんなのことを考えて耐えるって言っていた。
さわちゃんは、なっちゃったからにはみんなを信頼してじっと我慢してたって言う。
だけど、本当はそれだけでは済まないくらいのものがある。
仮初なのかもしれない。それとも元の世界に戻っても、
自分の死を受容するまでは、みんな一度はそういう状態になるのかもしれない。
そこから運に恵まれて、あるいは何かの力を奮って、
かろうじて脱出できたひとだけが。
「臨死状態」とか「仮死からの生還」と称して、
ちょっとばかりの小銭を稼ぐのかもしれない。

一つ勉強になったのは、「灰化」してもそのへんの事情はかわらないということだけ。
「昏倒」であれ、「灰化」であれ、実は身体は心を手放そうとしない。
自分が自分で離脱=完全な死を望まないかぎり、
たぶん幽体離脱とかそんなふうに言われる現象は起きない。
起こしようがないのかもしれない。
身体は常に、昏倒から目覚めたときには猛烈な食欲をおぼえるんだ。
これは嘘じゃない。
さわちゃんはああみえてかなり健啖だからふだんからそうだともいえるけど、
あのムギだって、昏倒したときはやっぱり食欲がものすごくなる。
それだけ、身体は、生命は、常に「生きている」ことを求める存在なのだろう。
身体が自分から死をもとめるなんてのは、やはりよほどの非常事態なのだろう。
体の半分をピラニアに食いちぎられも、まだ生きようとして暴れる魚のように。
それが本来、なのかもしれない。
だから、あたしもムギもさわ子先生も、
自分の死んだ状態を自分で確かめることはできなかったし、
それこそあたしたちが2度と戻れなくなるようなことが起きない限り、
自分たちの死に様を自分たちで目にすることはないのだと思う。
それが慈悲だとかは少しも思わない。
自分たちが好きな、愛している人たちに。
そんな有様を見せること自体が、やはり一種の罪であり罰なのかもしれないと思う。
あたしは、もう澪に2回もそんな有様をさらしてしまった。
澪だけじゃないけれど。
でも、今あたしの腕の中で。
安堵したように、泣きながら眠ってしまった。
この愛しい幼なじみに。
そんな姿をみせたことは、やっぱり強烈に後悔している。
それが。
たとえあの机の上にある、いまいましいけどこの世界で最強を号される剣の復活と、
引き換えだったとはいえ。

あたしより澪のほうが身体も大きいし重い。
長時間乗りかかられたままだと、実のとこちょいときつい。
だけど。
それは心地いいし、同時にあたしもほっとする。
澪の寝息と体温。
そしてまだ、澪は、まだ「死んでいない」。
あたしたちみたいに、「本当に誰かが助けてくれないとどうにもできない」
状態に陥ったことはない。
この、妹みたいな、姉みたいな、そしてみんなにゃ悪いけど、
やっぱり最後まで手放したくない、ほんとうにわるいけど、
引換にはできない、この優しい生命を。
あたしが受け止めていられるのは、
澪があたしを選んでくれたことと、驚異的な幸運と、
その双方に支えられているのは間違いない。

あたしと澪は、ここに来て割と早い段階で結ばれた。
やっぱり怖かったんだと思う。
はじめて地下に降りて、アルマールの人たちに支えられていたにもかかわらず、
あたしも澪も、そしてさわちゃんでさえも思うように動けなかった初めての地下。
帰ってきたときには疲労困憊がひどくて。
唯たちでさえもボロボロになってたのに、
この人一倍怖がりで緊張に弱い幼なじみは。
かろうじて意識をつなぐのがやっとという有様だった。
そしてそれはあたしも同じ。
ふたりだけになったその後。
せめてお風呂だけは入らないと、と思って澪を促して。
この、あたしたちに割り当てられた部屋の浴場に入ったとき。
あたしは何かが切れてしまってたと思う。
澪の、一日で想像を絶する体験をしたにもかかわらず。
あいもかわらず綺麗な裸をみたときに。
あたしはもうなにも考えられなくなって、澪に貪りついていた。
澪もほとんど抵抗もしないで、
初めてだったなんて思えないくらい、あたしに絡みついてきた。
それがなんでなのか、なんてことはあたしには説明もできない。
ただ1つだけ言えるのは、
さわちゃん、とたぶん憂ちゃん、はたぶんほんとうに大変だったんだろうな、
ってことくらい。
あのふたりは、そう出来る相手はたぶんいなかっただろうから。
もしかしたら誰かがいたかもしれないけど、そんなことは詮索することじゃない。
何にしたって。
あたしは何度も澪をもとめたのは事実。
お風呂場の大理石に投げ出された澪の躰、染まった白い肌、それにあの黒髪。
今でも鮮明に覚えてるし、ぞくぞくする。
澪もなんどもあたしに縋りついたし、そればっかりか最近じゃ。
逆にあたしを苛める楽しみさえ覚えたみたい。

そうなった事自体は、すこしの後悔もない。
むしろここで良かったんだとさえ思う。
この街には、少なくともユリアさんの許にいる限りにおいては。
あたしたちの選択は、何にも誰にも非難も差別もされない。
そればっかりか、あたしたちが睦み合ったあとの始末も。
ほんとならあたしたちがするべきなのに、必ず綺麗にされている。
いつも申し訳なく思う。
あたしが逆の立場だったら、やっぱり少しは腹がたつかもしれないから・・・、
でも、あたしたちはそれに甘えてしまっている。
澪もあたしも、お互いが愛しあったあとの匂いがないと。
いまは思うように眠れないから。

あたしたちは、まだいいほうなのだと思う。
唯・梓・憂ちゃん・ムギで複雑な関係になっちまってるあの4人や、
一人寝を受け入れて、保護者としてまだ頑張って
我をとおしてるさわちゃんに比べたら。
あたしたちはそれ以外は、まだそこまで気にしないでいい。

高い天井と、天蓋付きのベッド。
1年目のムギの別荘の時以来の光景が、もう当たり前になって半年さえ大きくすぎた。
聡のやつ、おやじとおかあさん、それに和や他のみんな。
どうしてるんだろうか。
あたしたちがいない間の時間は経過しない。
厳密に言うと
「いなくなった直後の時間に送り返すことは可能だから、
周囲がいなくなったことに気がつくことはない」
ってネプチューンさんは言ってたけど。
こんな経験をした記憶がもし残るなら。
鍛えられた身体がそのままなら、違和感は残るのかもしれない。
まあそれはいいんだ。あたしにも澪を、みんなを守る力が、
たとえ向こうに戻っても残るのだと思えば。
澪たちの魔法の力がまさか残ることはありえないにしても、あたしや唯、梓。
・・・さわちゃんは元から強いからともかく。
あたしたちは男がいなくても
それなりに自分たちを守れるくらいにはなった。
そう。
澪を守りぬく力が。

あらためて思う。
あたしは澪とどうなりたいんだろう。
澪のことを、あたしは大事な友だちだとずっと思ってた。
それが微妙に狂いだしたのは、中学生の時。
澪はいつもあたしと一緒だった。
小学生のとき、あたしにたった一度だけ、大声をだしたあのときから。
・・・いや、中学末期にはだいぶんくだけてきて、
今のノリになってきたんだけど、
小学校の時は、結局最後まで気の小さい、可愛い女の子のままだった。

それが転機を迎えたのは、中2のころ。
澪はいち早く第二次性徴をむかえて
(あたしだけの秘密だけど、澪は中学に上がるときにはすでにブラが必要になってた)、
中2になるころにはニキビなんかも終わってて。
すっかり一人で女になっちゃってた。
それに比べてあたしは子どもっぽい時期がまだ続いてて、
クラスでも(中学までは公立の共学だったんだ)
男子女子どっちともふつーに仲良くやれるポジションをつかんでた。
つまりそれは、あたしは「ある意味男女」だったわけで。
そのあたしに。
めっきり育ってしまった女の澪がくっついている姿っていうのは。

これはもうしょうがない。
色気づいた男女の中では、当然出てくる噂は避けられない。
あたしは男っぽいけど女。
澪は男女の羨望を集める女。

あたしだって、まわりにそんな組み合わせの存在がいれば意識するしかない。
そして間抜けなことに、あたしはその視線の意味を全く気がついてなかった。
当の澪がどう思っていたかも、あたしはわかってなかった。
澪とあたしに向けられる他の女子の視線が違っていたことにも。
クラスどころか、全校でも地域でも間違いなくトップを張れる澪のことを、
クラスメートがどんな思いで見つめていたかも。

あたしにとって、澪は友達のはずだった。
誰よりも大切な、という定冠詞はつくけど。

でも、澪がクラス内で孤立してたのにやっと気がついて。
澪が悲しい涙と、2回目のあたしだけにむけた絶叫と共に、
あたしのために初めて作ってくれた
チョコクッキーを泣きながら川に捨ててしまった
あの日から。

あたしは、澪をそれ以外の存在として初めて意識した。

え?チョコクッキー?無理矢理に泳いで川から救出しましたが何か?

そのときに。
あたしは初めて、
「澪があたしに思いをむけてる」ことに気がついた。

でも。
それはお互いに口には出せなかった。
少なくとも澪は、この世界であたしに抱かれるまでは、
表向きにはなにも言わなかったように思う。
・・・あたしは澪の才能を羨んでたし。
澪と一緒にやっていきたい、澪をずっと守っていきたい。
そう思ってはいたけれど。
同時に、澪にはもっと広い世界に旅立って欲しい。
あたしのそばになんかいつまでもいないで、
あたしよりも遥か遠くに旅だってほしい。
そういう気持も、決して偽りじゃなくて。
そのためには、あたしはいないほうがいい。
澪はあたしにすがりついてしまうから。
そんな風におもうこともやっぱりあった。
そして、何よりも、なにか成功した時の、
澪の笑顔は、あたしにとって本当に宝物だから。
その笑顔ひとつでご飯1升食べられる。
その笑顔で空だって飛べる。湖の水だって飲み干せる。
澪はそういう存在だと、あたしは思ってた。

でも違ってた。
あたしにとって、澪はそれだけじゃなかったんだ。

澪が和と仲良くしてる現場は、正直きつかった。
あたしが澪を「突き放した」意識はどうしてもあったから。
でもそれがわかってたから。
「澪はあたしんだ」という気持ちをあたしは止められなかった。
澪にどんなことをしても、最後は澪は許してくれる。
あたしは本当にそう思っていた。
風邪なんか、表向きの言い訳だ。
あれはわざとひいただけ。ズル休みの口実として。
まさかそれが唯にうつって大変なことになるとは思わなかったけど。

あたしは正直、その程度の女だ。
澪のことが誰よりも大好きで。
嫉妬深くて、澪を取り上げられるのは、絶対に許せない。
その程度の女なんだ。

澪を縛ってるのはあたしだ。
澪を引き止めてるのもあたしだ。

澪が独り立ちするのを望んでるふりをして、
あたしは澪を手放そうとしない。

わかってるんだ。自分でも。

澪がそばにいないのは嫌だ。
澪とずっといっしょにいたいだけなんだ。
この。
天使のような存在のことを。

あたしは、そばにいて、あたしのものだって言いたいだけなんだ。

そして、皮肉なことに。
この世界でそれはかなってしまった。

あたしと澪は女同士だ。
ただでさえ、
周囲の視線の幾つかは冷たいものに変わる覚悟はしないといけない。
それにくわえて、あたしたちには法の保護はつかない。
結婚もできないし、財産もひとつにはできない。
なによりも。
あたしたちには、子どもが生まれない。
どんなに愛し合ったとしても、
澪にもあたしにも子どもをさずかることはできない。
あたしはまだいい。聡がいるから。
でも澪は一人っ子だ。
もしあたしが澪と添い遂げるということになれば。
秋山家は絶えることになる。
あたしは幸い、澪の両親に信頼してもらえてる。
でも、あたしと澪が結ばれるってことは。
その信頼に大きな挑戦がかかることになる。
あたしに、その試練に打ち勝つ自信はまだない。
この世界では「将軍」なんて呼ばれる立場になってしまったけど、
元の世界にもどれば、あたしはただの女子高生に過ぎない。
勉強も苦手、ドラムだって10人並からようやくすこしだけ
自信がついてきただけだ。
ましてや、澪の才能にくらべたら。容姿にくらべたら。
あたしなんかなんにも釣り合うところさえもない。
いずれ澪は世に出ていく。それはまちがいない。
でも、あたしは多分そこにはいられない。
今のままならよくても影の存在。
悪ければ引き剥がされることだって覚悟しないといけない。

でも、それが澪のためなのかどうか。
あたしにもわからない。
あたしがそばにいることが。
あたしが澪と一緒に世界に打って出たい気持ちが。
はたして澪のためになるのか。

Ashura Clock 居丈高に 道をせしめて走るBlack Car
Ashura Clock 道を隔て 百の天使がバクチで人を支う

澪。
あたしの澪。

澪があたしのことを心配してくれることが。
澪があたしを常に気遣っていることが。
澪があたしのために泣いてくれることが。

はたしてこれからも、澪のためになるのか。

それを考えたくなくて。
あたしはさっきも、戻ってくるなり澪をめちゃくちゃに愛した。
お腹空いてたのも忘れて。
澪の体を、澪の喘ぎ声も、澪の体液もめちゃくちゃに啜り倒した。

何もかも忘れてた。
お腹が空いてたことも、喉が渇いたことも。
そして本当は眠りたかったことも。

そして、澪がくったりと眠ったのを確かめて。
あたしも疲労困憊で、シャワーすらも忘れてベッドの中。
あしたまた、片付け押し付けちゃうことになるのか。
たまにはメイド長のクリスさん(青い髪のネコミミメイドさん。かわいいんだー)
にちゃんと謝らないといけないな、なんて思いつつ。
疲労がすぎて眠れなくなってしまった体を、澪の下に横たえている。

あたしは正直、自信がない。
特にあることを知ってしまってから。
この世界は男が少ないらしい。
その理由が。
「男を産むためには男がいないといけない。
それを希望しないなら女同士でも子どもは生まれる。
ただし女しか生まれない」
というこの世界のことを知ってしまってから。
アルマールは、正規軍の将兵を除けば、たしかに男性の数は少ない。
しかも聞くところによれば、男女の肉体構造的な欠陥を考慮にいれなければ、
男女間での兵士としての質はそれほど差が出ることは、この世界ではないらしい。

「あなたたちの世界では、同性同士では子どもができることはないのね。」
医療総監という重責を担う高僧、リザさんはそう言った。
「でもおそらくこの世界では違うと思う。
愛し合うふたりのために子どもを授かる魔法がこの世界には存在する。
たぶん、あなた達にも普通に効果はでると思う。
試してみなければなんともいえないけど」

たぶん、リザさんはあまり言いたくなかったのだと思う。
その時のリザさんの表情によぎった、
ファンシーで愛らしい容姿(ふわふわのピンクの髪と瞳!にクラシカルなナース服)
には似合わない哀しいものを。
あたしは気がついていたから。

たぶんこの事実を、
あたしたちを引き止めるために利用を考えている人がいるのだろう。

あたしたちを、利用しようと目論む連中が、敵の中にもいる。
あたしたちはもうそういう存在になってきているのだろう。
逆に言えば、あたしたちは自分たちの人生を。
この世界でなら選べる立場に、すでになりつつあるってことなんだ。
この世界にいる限りにおいて。
・・・柄でもない、支配者としての、人生ならば。

でも。
その言葉に、あたしは揺らいでる。
ユリアさんたちを蹴落としたいわけじゃない。
まして傀儡になんかなるのはごめんだ。
でも。連中がそれを取引に持ちだしたってことは。
あたしたちに潜在的であっても、
その可能性があることを連中ですらみとめたことになる。

まして。おそらくはアルマールのひとたちは。
あたしたちを歓迎してくれるだろう。
なおのこと、あたしと澪の娘なんてことになったら。

あたしたちが、元の世界にもどらなければ。
あたしと澪は誰はばかることなく、一緒の人生を歩んでいける。

でもそれは。
はたしてこの、幼なじみのためなのだろうか。

澪。

ため息が洩れてしまう。
澪はまだ、眠っているように見える。

殆ど身じろぎもせず。
澪は眠ってる。

あたしを離さないというかのように。
あたしの腰に手を添えたまま。

あたしは、澪のためになっているのだろうか。
あたしがいることが。

聞くことはできない。聞くことにおそらく意味なんかない問いが
頭の中をかすめたその時。

澪が顔をあげていた。
その漆黒の瞳に。
わたしを映しだして。

「律」
そう呟いた澪は、あたしの上の体を下ろして、
ベッドの上を這いずるようにしてそばに寄り添った。
愛しあった時の甘い匂いをからだにまとわせたまま。
澪の顔が、
以前だったら「近い、近いって」って人前だったら叫んでしまうような距離に収まる。

「ちゃんと、生きてるよな」
聞きようによってはひどい言葉。
でもそれは。
あたしが大事な幼なじみ、いや恋人にかけてしまった苦痛に
きちんと向かい合い、引き受けるための言葉だった。
「そのことばは澪に返してやんよ」
あたしもおもわず、悪態で答える。
死ぬ、死んじゃうとか叫んでたくせにさ。
「ふふ。律に殺されるならそれでもいいよ」
・・・なんてやつ。
見透かしたように笑う澪のほっぺをつねってやりたくなる衝動にかられるけど、
それにかえてあたしは、澪の髪を梳く。
一応髪は戻ってきたときに洗ったみたいだけど、あれだけのことをしたあとだからか、
さすがの黒髪もところどころでスムースには流れない。
でも、それが。
澪があたしと寄り添っている証拠でもあったから。

澪が笑ってる。
あたしはすこし、強めの愛撫もしてた。
澪は結構高い声をあげてよじって、あたしの愛撫に抵抗もした。
だけど。
いまの澪は何もかも忘れたような、しどけない笑顔をあたしに向けている。
なんでなんだろう。
あたしは澪を引き裂きたくなる衝動にさえ駆られてたのに。
澪は無垢ではないけど、透明な笑顔をあたしに見せる。
「律が生きてるなら、それでいい」
・・・澪。
そういうセリフは、人の胸にもぐって言うんじゃない。

「律が生きてる。あったかい。
とくとく心臓が鳴ってる。律の匂いがする」

あーもー、また澪を押し倒したくなるじゃないか。

「でも、次は私の番だからな」
そう言った澪は、普段はあまり見せない色気づいた笑顔をみせた。
困ったやつだ。ほんとうにどこまでいっても内弁慶なんだよな。
「内弁慶のなにがわるい」
あ、開き直ったよ。
「律だけが、いや、私が好きな人たちが知っていればいいんだ。
律を好きな私のことも、内弁慶な私のことも」
その言葉に、ちょっとはっとなる。
「律。すこしひとりごとが洩れてたぞ」
「・・・起きてたのかよ」
「口に出してる、律がいけない」
反論できない。
「律」
そう言った澪は、一糸まとわぬ半身を起こした。
転がったままのわたしの隣で、ベッドの衝立に上半身を預ける。

「律」
もういちど、澪は言った。
「私はムギの言葉を全部は受け入れてない。
みんなのために私が強くなってほしい、それはわかる。
できれば私もそうなりたい。いつまでも能力はあっても脚を引っ張ることがある、
なんて評価はごめんだ。
私だってムギや梓に、いつまでも心配されるような存在じゃいたくない。
ましてあのホワイトドラゴンの時のような、情けない判断ミスは、
もう絶対に許されないこともさ。
だけど。
そういうこととは別に。
私には律が必要なんだよ」
言葉がでない。
澪の髪は、主の表情を絶妙に隠している。
「律がいなければ、私は一人では立てない。
律がいなくちゃなにもする気にならない。
それはこの2年で、改めてほんとにそう思った。
文芸部に入部届をだそうと思ったのだって、本心では
律が妨害するか、結局律は一緒に来てくれることを期待してたんだ。
律が、そばにいること。
それはそうさ。
共学の公立高校に行くつもりだった律が、
私のために突然桜高に進路を変えて、私にさんざんに言われながらも合格を果たして。
結局授業の選択だって、ここまでみんな同じじゃないか。
私がわがままを言えば、きっと律は困った顔をしても、ぶつくさ言いながらも
ついてきてくれる。
私はいままで本当にそう信じてきた。
律はそうなんだ。
私にとっての律は、
「私のために自分を律してる」そんなひとりの女の子なんだよ」
「・・・澪」
「律がいなくちゃ何もできない」
澪はそこで一度言葉を切った。
「違うんだ。私は律を独占したいんだ。そのために秋山澪は、田井中律がいなくちゃ
なにもできないという評価を、自分に身につけた」
「・・・おい」
「わかってるんだ。ずるいのは私だ。
律に自分の可能性だとか能力を全部あずけて、律がいればいい。律がいれば何とかする。
そう振舞ってみせることで、私は律を縛ってきた。
律は自分のことを過小評価してるけど、ほんとうはそんなことはない。
律にはものすごい才能がある。あれだけ走ってるドラムでも。
実はちゃんと周りを読んで、自然に周りがきちんと噛み合うようにしむけてる。
真に正確さを要求する曲では、きっちり合わせられるのがその証拠さ。
律は煽ってるだけだって言う人がいるけど、それが間違いなのは
律に合わせてる私がほんとうはよくわかってる。
楽譜通りにやろうとする練習時に私は頻繁に律を止めようとしてるけど、
あれが本当は余計なことだってのも。
律がいれば、放課後ティータイムはきっちりまとまる。
譜面とは少し外れたとこであっても、さ」
無意識にか、髪を一度かき上げる。
澪。
言葉にはでてくれなかった。
「わかってるんだ。小さい頃から私は美人だ可愛いって連呼されてきた。
だれも私の容姿について悪口を言う人間はいなかった。
そして私に踏み込んでくれる人もいなかった。
私がまるで触ってはいけない存在であるかのように。
律だって最初はそうだったさ。でも、私を最初に部屋に入れた時から、
律はただひとり、私にスキンシップを平気でしてきた。
親でさえ、私を壊れものみたいに扱ってたのに。ママ以外は。
律はそこを踏み越えてくれた。
最初に、さ。
みんなは別さ。でもやっぱり、優しく愛情をもって触れてくるだけだ。
本気でじゃれてくれる、セックスの時にあれだけ私を狂わせてくれるのは
やっぱり律だけなんだよ」
だから。
「私は律にだけ触ってもらえばいい。
律以外のだれにも私は触らせない。それは私だけの思い。
聡はちょっと別かもしれないけど、でも悪いんだけど、
聡に求められても私はたぶん応じられない。
それは、聡は律じゃないから。
そこだけはどうにも変えられないんだ。
まして、律との間を守るために、
聡を隠れ蓑に使う気はまったくない」
あたしは思わず跳ね起きた。
「どういうことだ、澪」
「そういうことさ。実は私のパパとママは知ってる。
娘たちのこと。
娘が誰を好きになってしまったか」
「・・・」
「最初に気づいたのはママのほうだった。やっぱりこういうのは隠せないんだろうな、
母親には。
覚えてるか?あの最初のチョコクッキー。
あれをつくろうと思ってママに言った時、ママはすぐさまこう答えたんだ。
「プレゼントするのは、食べて欲しいのはりっちゃんなんでしょう?」
私は何も言えず、何も隠せず頷くしかなかった。
あんまりにも直球で、どうにも流せなかったんだ。
その時にママはこう言った。
「人の気持ちは永遠じゃない。
いつか壊れてしまうものも、忘れてしまうものもある。
でもそうだからこそ。
わたしは貴女の思いを大事にして欲しいし、それを決して邪魔しないからね」
「・・・」
「パパはやっぱり未練があったみたい。
私が子どもを産んで、おじいちゃんになることに。
私が律を好きだって言ったことにはなにも言わなかった。
たった一言、あの子は眩しいな、って、それだけ。
でもそれとは別に、パパはこう言った。
これは律さんを傷つけることになるから選択はしてほしくない。
だけど、パパの本心は。
律さんと一緒になるのはいい。ただ、できるなら、
聡くんとも契って、子どもを迎えて欲しい、って」
「・・・それって」
「そういうことさ。怒るのは簡単だ。こんなバカな選択肢はありえない。
律も聡も傷付けることになるし、いくらパパの望みでも聡に抱かれるなんてことは
ありえない。でも、
歴史上でも文学上でも、こういうケースやテーマは案外ある。
それだけ重いことなんだよ、家ってさ」
・・・あの、澪の親父さんでも。
「もちろん、それはありえない。でも、本当の所。
私は律となら、子どもはほしい。
馬鹿みたいだろ?でも私はずっとそう思ってきた。
元の世界にいたときから、ずっとさ。
律の子どもを産みたい。苦しんでいる間にずっと手を握っていて欲しい。
律との子どもに、乳をあげたいって」
澪。
そうか。
「私と律の子。どっちに似てもとんでもない可愛い子だぞ。
きっと私たちのことなんか吹き飛ばしてしまうくらい、すごい子に育つんだ。
・・・きっと」
わかってるんだ。
「そうだよ、元の世界に帰ればそんなことは夢物語でしかなくなる。
研究はされているらしいけど、たぶん私達が生きている間にそんな技術が
実用化なんてされる見込みはない。
でも、ここにいれば、あるいはここで産まれてくれれば・・・」
澪に限界が来たことはわかった。
震えて泣き出す澪を、あたしは思い切り抱きしめた。
いまはそれだけしか、できないから。
むろん。
それが元の世界でありえない、いや、
決意だけではあまりにも重すぎる選択であることも間違いない。
あたしと澪がしっかり前を向いていれば、
「なんとでもなる」
なんて言えるはずもないことなんだ。
「ごめん。律、ごめん。
私は本当にひどい女だ。
律の優しさに、律の気持ちに、
寄りかかって生きる事しか選ぼうとしないダメな女だ」
「そんなことはないっ!」
「え・・・」
「よしんばそうだとしたって、それが澪が強くならなきゃいけない理由じゃない。
それは順番が違ってる。
あたしはいまの澪が好きなんだ。澪に甘えていて欲しいんだ。
しっかり自分で立つ気ならそれは応援だってする。
でも、澪が望んでないことはあたしは望まない。
なんでかって?澪にはそんなことをする必要はないんだ。
あたしがいるんだから」
「・・・りつ」
ぽろぽろと、澪の大きな瞳から転がり落ちる涙。
あたしはそれをそっと舐めとって、続けた。
「あたしは澪といっしょにいたいんだ。これからもずっと。
澪のために生きていきたいんだ。
澪の寝顔を見ていたいんだ。
澪と人生を歩んでいきたいんだ。
澪の心を独占していきたいんだ。
そのために、澪に必要なことはなんでもする。
澪がそばにいて、心地よく思ってもらえるなら
なんだってやっていく覚悟はしてる。
それは澪のためだけじゃなくて、
澪をあたしが愛していきたいから。
澪にふさわしい存在でいたいから。
澪が、あたしの腕の中で息を引き取るその時まで」
愛おしい、狂おしいまでに愛おしい。
最愛の人の、顔を優しく愛撫しながら。
「・・・りつ」
「愛してる。澪。いままでも、これからも。
澪だけを知っていれば、あたしは他の誰ともこんなことしない。
澪だけに、澪だけと、したいんだ。
だからあたしは、澪にふさわしい存在になる。
どちらの世界で生きていくにしたって、
あたしは、澪にふさわしい、女になる」
田井中律。
そうだよ、何を迷ってる。
あたしが秋山澪に、相応しい女になればいいんだ。
澪の傍にいたって、誰も何も文句なんか言えない。
そんな存在になってしまえばいい。

人に寄生する輩に、人にしがみつく輩に、
人を利用して自分の利益を確保しようなんてせこい奴らに、
あたしと澪のことを、放課後ティータイムのことを、
絶対に使わさせはしない。
あたしたちは、あたしたちだけのものなんだ。

この世界で、あたしは誰にも文句を言われることはない。
マルス将軍はけっこうきっつい人だから、最初の頃はあたしを訓練で吹き飛ばす度に
「そんなことじゃ、澪のことは守れないなぁ」
って抉る言葉をあたしにたたきつけてきた。
でも最近はなにも言わない。
むしろからかうように、
「わたしと澪の黒髪は、どっちが綺麗だと思うか?」
なんて言葉を訓練中に向けてくる。
あっちはまだ余裕があるのがわかるのがくやしいけど、
それに対して、
「匂いを嗅ぎたいのは澪の方ですよ、将軍!」
くらいのことは言い返せるようにはなった。
同じ事を、もういちどもとの世界で成し遂げればいいんだ。
あっちだったら、ドラムで。
澪は絶対音楽で世界に自分を問いかける。
あたしが、その澪にふさわしい存在であることを。
あたしがきっかけを作った放課後ティータイムが、
澪の居場所として、そこしかないってところを魅せつけてやればいいんだ。
唯がいる。ムギがいる。梓がいる。これだけそろってて、
あたしたちが他に負けるはずなんかないじゃないか。
あんな腐ったいまの音楽業界相手なら、
そんなに遠い目標じゃないはずだ。
努力もしないまま、逡巡しててどうする。
澪はあたしんだ。
それなら、それを最初から叩きつけてやればいいんだ。
あたしから、あたしたちから奪えるものなら奪ってみろ。
それが、世界に名乗りでるってことなんじゃないか。
どっちの世界で生きていくにしたって。
あたしたちがあたしたちらしくしていけない、理由なんかない。
「だれも反論できないことを叩きつけたあとで、
こっちの世界に一度戻って子どもを作って、もう一度もどったっていいじゃないか。
まだきっと、澪は「綺麗なママ」のままでいられるぜ」
「それだったら、せめてこっちでも結婚式はしたいな。
ふたりで2回、ドレスを着るんだ。
律も着るんだぞ。タキシードだけじゃなくてさ。
そうしたら私がお姫様抱っこしてやる、律のこと」
でもあたしはそれに反発しなかった。
最初はあたしは澪を抱きしめてた。
でもその体の位置はなんだかだんだん下がってしまい、
いまは澪の胸にあたしがいる状態。
これじゃたしかに、かっこいい言葉も様にならない。
それにいまは、ピロートークにすぎないんだ。
閉ざされた世界での、ふたりだけの睦言。
でも。
これはあたしにとって神聖な誓いなんだ。
澪の胸。
あたしのためにある、
いつかかならず授かる、あたしと澪の娘のためにある、
豊麗な存在。
そのなかに収められた、思いと心臓の音。
そして血と温もり。
誰にだって渡すものか。

澪は、あたしんだ。
それだけさ。

「最高のクリスマスプレゼントだよ、律」
「クリスマス?」
「気がついてなかったか。
私達がこの世界に引っ張りこまれたのが9ヶ月前の3月25日。
あれからちょうど9ヶ月、今日は元の世界の暦で12月24日なんだよ」
澪が涙をもう一度拭って、笑う。
「そうか。今日はイブなのか」
「イエス・律・田井中、今日降誕だな」
「なんだそりゃ」
「私にとって律は、救世主より大事だよ」
「どうせ信者じゃないだろ」
「ああ、でも。
律をわたしに引きあわせてくれたのが神の采配なら、
私は今日から神を信じることにするよ」
「信じるものしか救わないせこい神様を拝むくらいなら、
あたしは澪を拝むことにするよ」
「おいおい、仮にもロードだろ、律は」
「ロードはパラディンでもある。そしてナイトでもな。
貴婦人を守るのはロードの務めでもあるんだ。
それに澪みたいな、こんなに綺麗な神様、そうはいないぜ」

そして。
あたしと澪の中に。
もう一度、火がついた。
今晩は眠れないかもしれない。
でもまあいいか。
一日くらいなら、鱗の女皇も待っててくれるさ。
もう一度煉獄につながれる日が延びることを。
せいぜい喜んでくれよな。

「今度は、私の番だからな」
その言葉が、あたしの最愛の笑顔から零れる。
え?
そう思った時。
あたしは澪に組み敷かれて、唇を塞がれてた。



曲間の詩は、
P-MODEL”ASHURA CLOCK”
(詩:平沢 進)
B’z”愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない”
(詩:稲葉 浩志)
をお借りしました。


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おもに百合(GL・ガールズラブ)な小説と周辺情報を公開しています。最近はコミPo!でオリジナル百合4コマも。現在は「けいおん!」、「魔法少女まどか☆マギカ」とオリジナル。カプ傾向は澪梓、憂梓、恵和あたり。あと、ほむほむは百合。
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注:管理人の名称は「あっとあとみっく」が正式ですが、ごくまれに「藍」と名乗ることもあります。

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