スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『普通ということ』(けいおん百合妄想SS)

けいおんのSSを公開します。
『普通ということ』というお題です。先日の予告通り、CPはむぎみおで。

今回はずいぶん昔の話でアレですが、けいおん第1期の4話「合宿!」でのエピソードから膨らませてみました。長さはほんの8KBほどなので、さほど時間もかからず読めるかと。


それでは、お楽しみくださいませっ!


 『普通ということ』



 小さな頃から『普通』にあこがれていました。

    ◇  ◆  ◇

 夢を、見ています。

 初めての高校生の夏休みは、軽音部の合宿で始まりました。私の家の、一番小さな別荘で。もっとも小さいながらも海のそばにあって、何番目かにはお気に入りな場所ではありましたが。そこの練習場に、私とちゃんのふたりは立っていました。

 半ば放置状態だった機器の調子も悪くないようで、彼女はすっかり上機嫌です。ここしばらくのイライラした感じもすっかり影をひそめていました。

 それにしても。私はしばしの間、彼女の姿に見とれてしまいます。長くて艶やかな黒髪。すっきりと目鼻立ちの整った顔。ベースが上手で、ちょっぴり風変わりな作詞家で。そつなく勉強もこなす。おまけに美人でスタイル抜群。それでいて、そういう部分をちっとも自慢したりしない奥ゆかしさも。

「あれ、唯と律は?」
「途中でいなくなっちゃったけど」
「……しょうがないなあ」

 ようやく我に返ったちゃんはしかし、いつの間にか唯ちゃんとりっちゃんの姿が見えなくなっていることに気づくと、いくらか落胆した表情を見せました。それでもなんとか思い直したのか、なにやら大きなバッグの中から、ごそごそと機械を取り出し始めたのです。

 それはかなり年代物の、いわゆるラジカセのようでした。おそらくCDもなかった頃の時代の。反射的に私は「なあに?」と自分の疑問を口に出していました。

「ああ、これ?」

 小さく微笑んだちゃんは、かちりとラジカセのボタンを押します。すると、聞いたことのない音楽が再生され始めたのです。今まで聞いたこともない、それはそれは激しい調子の曲でした。それはロックというより、むしろヘビーメタルとか、そういう感じの。

「昔の軽音部の学園祭でのライブ」

 まるで赤ん坊をいつくしむ母親のように、ちゃんはうっとりとしています。

「この前、部室で見つけたんだ」
「上手……」

 流れる演奏を耳にした私の、シンプルかつ最大限の賛辞でした。これが同じ高校生の演奏だなんて。とても信じられない。

「私達より、相当上手い」

 どこか思いつめた表情を浮かべながら、ちゃんがそんなことをつぶやきます。はたしてそれは私に向けられたものだったのか、それとも単なる独り言だったのか。

「なんか……聞いてたら、負けたくないって……」
「それで合宿って言い出したのね」
「うん……でも」

 わかってしまったんです。目を逸らしながら、さも恥ずかしそうに小声で語る彼女の内側に、燃え上がるような情熱を見てしまったから。お互い、歩んできた道こそまるで違っていても。音楽に対する真摯な態度だけは、間違いなく本物なのだと。

 そしてもうひとつ。この演奏をしていた頃の軽音部と、現在の私達の軽音部とのあまりにも大きな落差という巨大な現実の前に、今にも彼女が押しつぶされそうになっていることも。

「負けないと思う」

 そう言わずにはいられませんでした。心の底からそう思っていたのかと問われると、微妙だったのは否定しません。それでもあの時、あの瞬間、あのちゃんの前でだけは、そう信じられたのです。そして何より、私が手を差し伸べなけなければ、彼女自身が壊れてしまうのではないか。そんな危惧も感じてしまったから。

 誰もが羨む容姿と能力とはうらはらに、澪ちゃんの性格は信じられないほどシャイで、目立つことを極端に恐れていました。軽音楽を始めるにあたって、あえてギターでなくベースを選んだ理由が「目立ちたくないから」というのですから。付き合いの浅い私にも、その感情はかなり根深いもののように思われました。

 そんな澪ちゃんが、そこまでの想いを口にした。それを聞いてしまった以上は、何か応えなければ。彼女の想いを少しでも受け止めてあげなければ。とっさに私の口からあんな根拠薄弱な台詞が飛び出してしまったのは、おそらくそういう事なのでしょう。

 私の言葉に顔を上げ、しばらくの間その意味を考えていたらしい澪ちゃんの瞳に、やがて光が戻ってきました。意思という名の輝く光が。

「私達なら……」

 きっと出来ます。いいえ、やってみせましょう。貴女と、私と、唯ちゃんとりっちゃんのみんなで。

「ムギ……」

 すっかり青ざめていた澪ちゃんの顔色が、少しずつ生気を取り戻していって──。

    ◇  ◆  ◇

 夢を、見ていました。

 なぜ先ほどの出来事が夢とわかるのか。だって実際には次の瞬間この練習場に、唯ちゃんとりっちゃんのふたりが乱入してくるから。でも、そこでは決してそんなことは起きない。だからこれは夢。できれば永遠に醒めてほしくない、私だけの身勝手な夢物語なのです。

 そんな思いを抱えながら目を開けると、すぐ傍に澪ちゃんの心配そうな顔がありました。

「大丈夫か、ムギ。なんかうなされてたみたいだったけど」
「ちょっと……夢を見てたみたい」

 ぼんやりしていた頭が次第に目覚めてきました。もちろんここは家の別荘などではなく、N女子大の寮の澪ちゃんの部屋。ずいぶんと見慣れてしまった、もうひとつの私と澪ちゃんの棲家でした。

 紆余曲折の末、手に手を取り合って同じ大学の学生になった澪ちゃんの部屋に、今夜も私はこうして人目を忍んでやって来たのです。そしていつものように彼女との営みを楽しんだ後、しばしのまどろみに身を任せていたのでした。もちろんこんなことは周りの誰にも打ち明けていません。私と彼女、ふたりだけの秘密なのですから。

「へえ、どんな夢だ。ひょっとして、私が出てきたりした?」

 悪戯っぽい笑みを浮かべながら、澪ちゃんがそんな事を聞いてきます。ひょっとしたらうわ言で何か口走ったのかも知れません。ですが。

「だーめ、秘密。たとえ澪ちゃんにも教えないもんっ」

 彼女の首に両手を回しながら軽く拒絶します。そこで慌ててしまっては、むしろ相手の思う壺。それにひょっとしたら単にカマをかけているだけかも知れませんし。

「そういう態度でいると、お仕置きしちゃうぞ、ムギ」
「お願いだからそれだけは許して。だって……今日は近所のスーパーの朝市がある日だから」

 一転して、しおらしい態度を見せながら、我ながらずるいなあと心の中で両手を合わせます。いえ別に、今朝朝市があるのは、本当の事なのですけどね。事前にお友だち情報でチェック済でしたから。

「……あー、それ、今日だったっけか。そういう所はきちんとしてるよな、ムギは」
「ごめんなさいね。私のわがままで、澪ちゃんにまで迷惑をかけてしまって」

 大学に入るとき、私は学費以外の一切の仕送りを拒否しました。意地だとか、親との間の確執だとか、そういった少々子供っぽい理由もあります。でも何よりも私は『普通』であることにこだわりたかった。

「大丈夫だよ。ムギはちゃんと頑張ってるから。それに私だって、そのおこぼれにあずかっているわけだし」

 などと澪ちゃんは苦笑いを浮かべます。どうしてこんなに優しいのでしょう、この子は。

 とはいえ、おかげで高校時代のように毎日ファーストフードでお喋り、などという贅沢は泡のように消滅。新しいバイトを探したり、近所のスーパーのチラシをチェックしたり、タイムサービスの時間を覚えてしまったり。顔も知らないお友だちのお友だちから、携帯でお得情報を教えてもらったこともあるのですよ。むしろ最近は家計簿を整理してて「今日の支出は昨日より4円も節約できたわ~」などと悦にいったり。

「でも、今が朝の5時だから、7時には身支度終えて食堂に降りるとしても、30分くらいはあるわよね、時間的には」

 でもたとえ赤貧にあえいでいたとしても、それほど不幸だとは思わないのです。たとえママゴトの様な毎日だとしても、自力で身の丈に合った生活をして、なにより大切な人が側に居てくれる。これこそ、心から望んでいた『普通』そのものなのですから。

「だからほんの少しくらいなら、お仕置きしてくれてもいいのよ?」

 そこで罪滅ぼしを兼ねて、上目使いで甘えた声を出しながら、できるだけ可愛くおねだりしてみました。すると、ついっとそっぽを向いたまま、すっかり頬を朱に染めた澪ちゃんがぼそりと呟くのです。

「まあその……ムギがどうしてもって言うんなら……」
「ふふっ、澪ちゃんのそういう所、大好き」
「ちょ、ムギ……ん、っあ……っ」

 ああ、なんてカワイらしいんでしょう、そういう恥ずかしがり屋な所は。たまらないほどの愛おしさを感じてしまった私は、思い切り両腕に力を込めて澪ちゃんの躯を抱き寄せると、そのまま──。

    ◇  ◆  ◇

 小さな頃から『普通』にあこがれていました。

 もっとも、こうして私が手に入れた『普通』。
 それは、他の人の言うところの『普通』とは、ほんの少し違っているかも知れません。

 それでも私はこう思うのです。

 この世で誰よりも大切な人と想いを通わせることができる。
 それはとてもささやかな、しかし何よりも『普通』なことではないか、と。

 (おしまい)
関連記事
スポンサーサイト

テーマ : 自作小説(二次創作)
ジャンル : 小説・文学

現在の位置
百合みっくす
 トップページ
  ├ 月別アーカイブ
  |  └ --年--月 --日 (--)
  ├ カテゴリー
  |  └ スポンサー広告
  └ スポンサーサイト
百合みっくす
 トップページ
  ├ 月別アーカイブ
  |  └ 2012年01月 22日 (日)
  ├ カテゴリー
  |  └ その他CP妄想SS
  └ 『普通ということ』(けいおん百合妄想SS)
by AlphaWolfy
新公式twitter
カテゴリ
タグcloud
プロフィール

あっとあとみっく

Author:あっとあとみっく
おもに百合(GL・ガールズラブ)な小説と周辺情報を公開しています。最近はコミPo!でオリジナル百合4コマも。現在は「けいおん!」、「魔法少女まどか☆マギカ」とオリジナル。カプ傾向は澪梓、憂梓、恵和あたり。あと、ほむほむは百合。
このブログはリンクフリーですが、相互リンクはお受けしておりません。ご了承くださいませ。
注:管理人の名称は「あっとあとみっく」が正式ですが、ごくまれに「藍」と名乗ることもあります。

最新記事
月別アーカイブ
Google フリー検索

Google

WWW検索 ブログ内検索

リンク
バナー
百合みっくす 明日は明日の風が吹く! ものとーんわーるど TRAFFIC JAM Girls Love Search 駄文同盟.com にほんブログ村 小説ブログ 百合小説へ つい・ゆり ~おかあさんにはナイショだよ~
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。