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『アマービレ・エ・カルマート』(けいおん頂き物SS)

けいおんのSSを公開します。といっても私の作ではなく、ツイッターでお世話になっているワールドの旗手にして世界の女帝、ユリアさま(@Yuriakatase)の手による作品をお預かりしたものです。

お題は『アマービレ・エ・カルマート(愛らしく、そして静かに)』。
視点でです。実際に登場しているのはですが、前提という

あらすじとしては、放課後の部室で眠っていたの後れ毛に、はつい指を絡めてしまう。その感触に心がざわめき始めるのだが…。こんな感じでしょうか。

澪梓・恵和メインの本ブログで澪?という方もいらっしゃるでしょうが、騙されたと思って読んでみてください。とにかく素敵です。詩的です。耽溺すること間違いなしです。約7000文字とちょっとサイズ大き目ですけれど、これでもユリアさま(@Yuriakatase)の作品としては短い方なのですけどね(苦笑)。

私なんか、初めて拝読させていただいたときは、こんな凄いモノをタダで読めちゃっていいんですかユリアさま(@Yuriakatase)、と感動いちゃいましたよ、ええ。

それでは、お楽しみくださいませっ!





 『アマービレ・エ・カルマート(愛らしく、そして静かに)』



「ムギ」
わたしは音楽準備室の扉をあけて、そう呟いていた。
ムギは眠っていた。
いつもの、お茶会用に固めたままの机に突っ伏して。
ひとりだけで。
首を窓側に傾けて。
右腕を枕にして。
艷やかな金色の髪を、机に広げて。

今日はたぶん、だれも来られないのがわかっている。
唯とは呼び出し。
あのふたり、大学受かったくせに
肝心の学校で補習が必要な身分になっていて、
あと2回、今日と明日は午後からの補講に出ないと
卒業させてもらえない。
文字通りの自業自得とは言っても、
さわ子先生に伝えられた時の、
あのふたりの情けない顔は今思い出しても、
悪いけど笑ってしまうものがあった。
数学とか英語とかならまだわからなくもないけれど、
なんでまた、普通に勉強しておけばどうにでもなる倫理政経と
一番トラブルになりそうもない現代語で。
出席はちゃんとしてたんだから、よっぽどテストがひどかったんだろう。
あのふたりらしいといえば、そうなんだけど・・・
そして梓は昨日集まったあとの帰り際、
クラスの会合で、今日は下校時間くらいまで
来られないだろうって言っていた。
思い当たるふしはある。
たぶん卒業生がつける、コサージュのことだろう。
そういえば、私たちも去年つくったっけ。
あれも唯とはなかなかうまく作れなくて、
結局が私に、唯が憂ちゃんに泣きついて、どうにか仕上げてたのを思い出す。
そういえばムギがあのとき、ちょっとだけなにか言いたそうだった。
でも結局、ムギはなにも口にしなかった。
教室まで来てくれた憂ちゃんと唯が仲良く作業をしているのを、
微笑ましげにみつめるだけで。

思えばムギは、自分から、自分のことをあまり話さない。
そもそも眠ってる時にでる謎の寝言以外、
私もみんなも、ムギの独り言とか自分からの提案とかって、
思いだせることが多くはない気がする。
いつも言い出しっぺのみんなにあわせてしまう方だと思う。
みんなの思いつきや提案に賛成して、
後押しするのを自分の役割だと思っているかのように。
みんなのために何かをすることが楽しいと、いつもムギはいう。
も唯も梓もどこまで気がついているのかはわからないけど、
一人早く登校して、お茶会のためのお菓子やお茶の準備をしたり、
食器の手入れをしたりしてることを、わたしは知ってる。

そもそも、ムギなら自分で携えなくても、
持ってきてもらうことだってできるだろう。
ムギはこの学園の理事長先生の姪なのだから。
そして琴吹家の令嬢。
普段ムギは、絶対に、そんな姿をみせはしないけど。
そもそもクルーザーを持っているような家の娘が、
どんな暮らしをしてるかは想像がつく。
でもそんな様子は絶対に、本当に絶対に。
ムギは誰にもみせない。
電車で通ってるのに、帰りはいつも唯と梓の家の方まで一緒に行っている。
そのへんちょっと疑問に思って梓に聞いたんだけど、
「ムギ先輩、唯先輩のおうちから私の家までいつも一緒なんですよ。
でもそのあと、わざわざ駅までもどっているんでしょうか?」
とだけ言っていた。
ムギのことだから、迎えがきていてもおかしくはない。
でもその一方で、ムギはそんなことをさせない気もする。

でも隙というか、リラックスしたところをみせないわけでもない。
そんなところが、わからないし、可愛い。

自分のことはわからないけど、少なくともムギはいびきとかはしない。
静かな寝息だけが、わたしの視線の先で息づいている。
ムギは私に気づかず、眠り続けている。
起こしたくなくて、それ以上声をかけるのをやめて、まず扉をとじた。
どんなに丁寧に動かしても、いつも少し不満そうに軋む扉が、
閉まる音を少しだけたてると。
音楽準備室はムギと私だけの空間になった。

そもそも今日は、私も来られるかどうかわからなかった。
もしかしたら、ムギは今日、
ひとりで最初から最後までいることになっていたかもしれない。
それでもよかったんだろうか。
今日のムギは、カバン一つだけ。
たまに連れてくるショルキーもいない。
トライトンはカバーをかぶったまま。
ソーサーもカップも、無論お菓子もない、少し寂し気な机で。
ムギは静かに眠り続けている。

机の上と肩から流れる、くすんだ、でもつややかな髪の隙間に、
後れ毛が姿をみせている。
安心しているような穏やかな顔色。
ムギは近づいたわたしに気づく様子もなく。
すぅすぅと、やわらかい息をもらしている。

本当に気がついてないのかな?
そんな悪戯心にはちょっとがまんしてもらって、
わたしはムギの寝顔をみていた。

まだ、ムギは眠っている。
だれもいない、だれも来なかったかもしれない、
この音楽準備室で。

・・・ムギは私たちと一緒にいて、
自分らしくいられたのだろうか。

そんな考えがふっと浮かんだとき。
ムギが身じろぎした。
はっとなって、一瞬固まる、
私の気配に気づいたのか、ムギが声を漏らした。

「う、うぅん・・・」

普段は可憐、とか、可愛い、という表現が一番似合うのに。
こんな時だけ、ムギの声には艶やかさがでる。

でも、また動きは止まってしまう。
再びリズミカルな寝息が。
ムギのピンク色の、肉の厚い唇から漏れるようになる。

私たちの中でも、ひときわ薄い、白い肌。
いまは閉じられている、淡い、少しだけ紫がかったブルーの瞳。
そういえば、ムギがどうしてこんな外見をしているのか、
わたしは1年生の合宿の時、たまたま聞く機会があった。
ムギはお父さんがハーフ、お母さんは向こうの人だったんだって。
・・・いまは、お母さんはすでにこの世にはいらっしゃらないことも。
今あらためて思う。
ムギの世話好きの側面は。
そう思った時、わたしは半ば無意識に、ムギの首筋に手を伸ばしていた。

日が少し傾いてきたのを感じる。
普段なら、6時間目の授業を受けている頃。
もうそろそろ、や唯が落ち着かなくなってきてて。
斜め後ろのムギも、ほんの少しだけだけど、表情と仕草に明るさが混じってくる時間。

そう、いつもの、放課後が始まるほんの少し前の時間。
いまはふたりきり。
・・・後れ毛に、私の指が届く。
気づかないように、気付かれないように、
わたしはやわらかい、ムギのそれに指を絡める。

すべてが女の子らしいムギ。

もし、私が進路を違えていたら。
ムギにこんなことをする機会は、2度と訪れなかったのかもしれない。
もし、ムギがお父さんを説得できていなかったら。
ムギはいま、ここにいなかっただろう。
私たちは聞いている。
ムギが相当に無理をおして、私たちと一緒にいる未来を選んだことを。
大学に入ると同時に、私たちと一緒の寮ぐらしを選んだことを。

誰よりも。そう、誰よりも。
ムギはわたしたちと離れることを嫌がった。

私たちもムギと離れるのは嫌だった。
・・・私はと離れる覚悟を、いっときはしかけていた。
そのくせきっと、律が追いかけてくると、わたしはどこかで考えていたのに。
でもそれは、ムギのわがままですべてひっくり返ってしまった。
ムギが私たちと離れるのを嫌がったから。
私たちは、結局次の4年間も一緒になる。
来年には、多分梓も追いかけてくる。
ムギがだだをこねて、律と唯がそれを受け入れた時。
私の、律から独立しないといけない、
あるいは律に追いかけてきて欲しい、という気持ちは、
もろくも崩れて、意味もなくなってしまった。

でも、それでいいと思う自分がいる。
成績から言えば、私とムギは、正直格下の学校だったのに。
誰よりも落ちるのを恐れていたのは私だった。
唯も律も、試験が終わったあとはケロりとしてたのに。
受かってることを確信した顔で。
そして、ムギは、
自分のことにはなにもこたえず、ふたりのことを優しく微笑んで見つめてた。
心配してたのは梓と私。そのふたりに、
「大丈夫よ、絶対」
って、いつもの陽だまりのような笑顔で応えてた。

・・・。

ちゃん?」
正直、心臓が止まるかと思った。

そう声をかけてきた、
ムギの碧い瞳が私を見つめている。

「・・・お、起きてたんだ。
・・・あ、あの、これは、その。
ゴメン、ムギ」
完全にしどろもどろになってしまった。
こんな風に言えたかどうかも怪しい。
でもそんな、うろたえきった私に。
ちゃん、いいのよ」
ムギは意外なことを言った。
「え、え?何がだ、ムギ」
情けないくらい動揺してる私に。
「そのままでいいの。
もし、ちゃんがよかったら、そのまま触っていて」
「え、ええええ?」
ますますうろたえが加速するのに。
なぜか。
わたしの左手は、ムギの首筋から動こうとしなかった。
ちゃんの指、冷たくて気持ちいいの。
おねがい。そのまま、触っていて」
その時になって、わたしは自分の指が。
いつのまにかムギの後れ毛だけじゃなくて、首筋に触れているのに気がついた。
まるで求めているかのように。
「いつから・・・起きてたんだ?」
「ん・・・ないしょ」
ムギの瞳と顔に。
少しだけ、優しい笑みが戻ってきた。
少し前までの、無表情に近い透明さが遠ざかり、
ふだんのムギが帰ってくる。
それにほっとした私は。
結果、指をはずすのを忘れてしまってた。

しばらくの間。
この不思議な時間は続いていた。
ムギはずっと、触り続けるわたしのことを。
優しく、心地よさそうに見ている。
わたしもそれに次第に慣れてきて。

外で、帰宅と部活の喧騒がはじまる。
その気配とともに、ムギは身体を起こした。
「お茶、淹れるね。でも、その前に」
「どうした、ムギ」
ちゃん。指、さわっていい?」

それは確認ですらない、
ムギには珍しい意思表示だった。
今日は驚かされっぱなしだ。
こんな風にする、こんなふうに振る舞う、
ムギは本当にめずらしい。
「・・・いいけど」
とっさに気の利いた言葉を返せない私に。
「よかった」
満面の、優しい、可憐な笑顔。
首筋にふれていた左手に。
ムギの右手の指が絡んでくる。
ちゃんの指、ひんやりしててやっぱり気持ちいいわ」
さらに、
ムギは絡みあう手と指に、自分の頬を押し当てる。
「・・・ムギ」
「澪ちゃん。わたし、澪ちゃんにこうして欲しかったの」
「・・・え?」
もしかして。
思わず何かを身構えてしまった私に。
ムギは小さく笑った。
「・・・スキンシップ」
「あ・・・」
「澪ちゃんは、ずるい」
「え?・・・」
「りっちゃんと、ふたりだけの世界を持ってるんだもの」
「・・・うん」
あんまりにも突然の指摘に、私はごく自然に受け入れてしまっていた。
「わたしも、そうしたい。ふたりとも、もっと触れ合いたいの」
「・・・」
ごめん、とか、いいのに、とか。
様々に答えはきっとあったと思う。
私は、ムギにそうされることは少しもイヤじゃなかった。
律みたいに、全く気のおけない関係もいいし
(たまに律が変身する、ところかまわずのおっぱいさわり魔にさえならなければ)、
ムギとならそうなっても少しも構わない。
そう、ムギがたった一人、能動的にそうする人。
唯と同じように。
でも、なぜか。
その時の私にはなにも返せなかった。
ムギの指は、手は、頬は。
心地良い暖かさ、温もりに満ちているのに。

ややあって、ムギの瞳に浮かんだ、
それに気づいたわたしがやっと逡巡を振り払おうとした時に。
「お茶、淹れるね」
ムギがもう一度そう言って、身体を離した。
「あ・・・」
私は痛切に後悔したけど。
その時の私には、もうムギは何も返してはくれなかった。

いつものふんわりした歩みで、ムギの体が遠ざかる。
広くもない音楽準備室なのに。
ムギと私の間には、大きな空気の壁が、
たちまち築かれてしまった。

「澪ちゃんは、イケメンさん」
やがて、ふたりぶんのソーサーとカップを手に戻ってきてくれたムギは。
私の横から給仕をしつつ、
唐突に、また不思議な事を口にした。
「え・・・?」
美人さんだとか可愛いとか綺麗とか、そんな言葉なら、
こんなことを言いたくはないけど、いつも言われてきた。
・・・そう、ママとパパを除けば、
はじめて律に言われた、あの日以来。
私をみた時に、
私を知らない人が大抵必ず最初に口にする言葉。
でも。
ムギの「イケメン」には、少し違う意味合いが入っているように思えた。
「澪ちゃんは、誰もを夢中にさせてしまう、そんな人なの」
動揺を鎮めるために口にした直後に、向けられた切っ先。
またも言葉に詰まってしまう私。
「・・・ムギだって、そうじゃないか」
カップをソーサーに戻して。
そう、私は知っているんだ。
ムギ本人は気づいているのかどうかはわからない。
でも、ムギにも、実は隠れファンクラブがあって。
しかも、実は。
本気でムギに恋している娘が、少なくともクラスにふたりいることを。
私は気がついている。
・・・律にはそういうのがない。
唯にもない。
梓にもない。
律はなんとなくわからなくもない。もともと背中で否定してるから。
唯はそもそも、ファンクラブとかそういう形で独占できる娘じゃない。
姫子さんを除けば、ね。
梓は私たちが守ってしまってるから。
それに、憂ちゃんと、たしか鈴木純って娘も。
来年がどうなるかは、わからないけど。

でも。
ムギはそうじゃない。
ムギ自身は気づいているのかどうかを、決してみせない。
だからこそかもしれない。
バレンタインデーで、結局ファンとしてのチョコレートを、
律や私と違って、ムギはどうやら一つも貰わなかったことも。

「・・・ううん、わたしはいいの」
自分で淹れたお茶の香気を含んで。
ムギは緩やかな、曖昧な笑顔を、湯気の向こうに透かした。
「わたしは、みんなに独占されていたいの」
「・・・ムギ」
「わたしは、誰もに好かれたいなんて思っていない」
「・・・」
「わたしは、
誰にでもやさしくありたい。
誰とでも仲良くしていたい。
でも、わたしは誰にでも好かれたいとは思わないわ。
わたしを受け入れてくれた、
”ここ”でだけ、みんなにだけ、好かれていればいいの」
かちゃりという音が、いつもより少し大きい。
「・・・ムギ」
「もう、いいの」
「ムギ」
「ここでいいの。
わたしはここが好きだから。
みんながいるここが好きだから。
でも、もうここにはいられないよね。
だったら、これからもみんなと一緒でいたいの。
ひとりだけ、いや、ふたりだけ・・・
いまは残していくことになっちゃうけど」
いずれ追いかけてきてくれると思うから、梓ちゃんは。
言葉にならない部分を、私はふっと脳裏に書き込んだ。
「ムギ」
「わたしはみんなに、わたしを独占していて欲しいの。
・・・澪ちゃんとりっちゃんには、迷惑かもしれないけど」
ぽろりと零れた言葉に。
「そんなことは、ない。そんなことあるわけない」
ここで止まってしまったら、今度こそ、私は私を許せなかった。
自然と声が大きくなってしまう。
「何をバカなことを。
ムギがいない私たちなんてありえない」
「澪ちゃん」
「当たり前だろ。
誰が、なんのために、
志望校を変えたと思ってるんだ、ムギ」
「・・・澪ちゃん」
ムギの大きく、綺麗な瞳が、夕日を映し込んで輝く。
「誰よりも、私が、私たちが、ムギといたかったんだ。
ムギが全てを乗り越えて、私たちのところに来てくれたんだ。
それなのに、なにが迷惑なもんか。
私たちは、ずっと一緒だ。一緒にいたいんだよ。
これからも、この先も、ずっと。
道無き道だって、梓が追いついてくれればずっと歩いていける。
だからこそ、”あれ”だけは封印したんじゃないか」

そう遠くない過去のこと。
もしかしたら、今を過去にしなければいけないかと思って。
ふたりで追われるように作った、あの曲を。
まだ何もしていない私たちの、青臭い感傷を。

でも、過去形になんかしたくなかった。
私たちは永遠を見出したんだから。
ここで。
この小さな、学校の片隅で。
傾いてきた光に満たされた、陽だまりのなかで。
私たちがいる場所は、いずれ変わってもいくだろう。
私たちも、永遠に若くはいられない。
でも、いつか本当にくる永訣の朝までは。
私たちは、今の私たちを捨てる未来は欲しくない。
そう思ったから。
誰よりもムギが、そう思ってくれたから。

私も。
律と、唯と、そしてムギと。
離れるのがイヤだったんだ。

いまの私たちを作ったのは、ムギなんだ。
きっかけは律、そして最後に決定づけたのは唯だけど。
でも。
いつか違う道なんて、
選べるものか。

違う空を眺めたくなんかない。
家族を持つとしたって、
いや、家族なんかいらない。
私には4人がいるんだ。
かけがえのない、大事な、4人が。
ABBAの悲しい結果なんか、私たちが繰り返してなるものか。
Beatlesで、崩壊するファブフォーにポールが見せた悲しいあがきも。

まして、
私たちはスタートラインに、立ってもいないんだ。
まだ私たちは、何も世界に問いかけていないんだ。
自分たちがここにいることを、
まだ「だれも」知らない。

すべてはこれからなんだ。
そして、
そのために、私たちは集まったんだって、
今はもう、心からそう思ってる。
はじめて、
律と私しかいなかったここに。
ムギが顔を見せてくれたあの瞬間に。
涙を拭って笑った、あのムギに。
私たちふたりが惚れ込んだから。
そこからすべてが始まったんだ。

私たちの、
私の律に対する気持ち、
律が私に向けてくれてるかもしれない気持ちとは別に。
ムギのことを手放す選択なんて、
もう2度としない。
放課後ティータイムを壊しかかった戦犯のひとりが。
どんな別の道を、選ぶつもりもない。

何よりも、私の詩には。
ムギのメロディが欲しいんだ。
ムギがつむぐ、未来と希望が。
ムギ以外に、寄り添わせたいメロディメーカーなんていやしない。
そして、いまここで。
いつも通りの綺麗な、澄んだ笑みを浮かべるムギを。
誰も来ないかもしれないのに、
じっとここで、全てを託して待っていたムギを。
私は、愛してもいるから。

そのときになってやっと気がついた。
いつのまにか、私はムギの両手をとっていた。

でも、私は手を離す気になんかならなかった。
そして。
「澪ちゃん。抱きしめてもよかですか?」
「なんでそこで訛る・・・」

私は自分から、ムギを抱いた。
私の両手から解放されたムギの腕も、私の背中に回る。

「りっちゃんがいるのに、ごめんね」
「そういうこと、今になってから言うな」

私の首筋に、顔を埋めるムギ。
どっしりと重たい。
律が軽すぎるせいかもしれないけど。
でもこの重さが、
温かさと重なりあうと。
それが私の中で、ムギの確実な存在になるんだ。

「澪ちゃん」
「ムギ」

って、これ以上はダメ。
・・・って、ムギっ!

「えへへ。澪ちゃんにキスマークつけちゃった」
「・・・こら」

どうせなら、って思いかけた。
このまま、ムギに抱かれていたいと思った。
ムギの重さをもっと、体全部で受け止めたくなった。
その矢先に。

あれ?音楽室、電気ついてるよぉ?
おんやー、誰か居るかなぁ?ムギと澪かな?
それならよかったです、帰らなくて。

げ。
そういえばもうだいぶ暗くなってきてる。
じゃない、あいつら、
なんで今になって。

ムギの唇の感触が残る首筋に、軽く手を当てる。
いつのまにか外されてしまった襟のボタン、緩められたタイを締め直して。

ムギを軽く睨むと。
当の本人は、両目を閉じてから、
左目を開けて手を合わせた。
「ごめんね、澪ちゃん」
「今晩律に、どう言い訳したものやら」
一応冗談のつもりで、そう返す。
「わたしも一緒していい?」
「・・・え?」

・・・ムギ。
しれっととんでもない返しを。
やっぱり、ムギには勝てないかな。
やれやれ。
視線の先の、ほにゃ、という優しい笑顔。

「みんなの分のお茶、淹れなくちゃ」
もう一度、首筋に手を当てた私から。
ムギの体が離れる。
でも、それは。
私にとって、もう寂しさや悲しみを秘めたものではなかった。
それに安堵した私は。
軋むドアを開けてきた、3人に向き直った。

「遅かったじゃないか、3人とも」
「ごめんね、みんなの分のお茶、すぐ淹れるね」






追記
このSSを読んでしばらくの間、まるで自分の指にもムギちゃんの後れ毛や首筋、そして頬や指の感触が残っているような気がして、いやもちろんそれは幻覚だと頭ではわかってるんですけど、それを追い払うのにずいぶん時間がかかりました。同時に、ムギに振り回される澪の迷いが、まるで自分自身の迷いのように感じられたものです。この作品、百回くらい書き写して勉強させてもらおうかなあ…。

さて今回の作品、いかがでしたでしょうか? もし感想などありましたら、ツイッターアカウントをお持ちの方はユリアさま(@Yuriakatase)宛に直接お伝えください。残念ながらお持ちでない方は、本ブログの拍手コメントに書き込んでいただければ、私から責任を持ってお伝えいたします。

それと百合みっくすでは、他にもユリアさま(@Yuriakatase)の作品を2つお預かりしております。

 『ノクターン ~夜は優し~』(憂梓)
 『ヘフティヒ・ヘルチヒ(激しく乱暴に、心を込めて愛らしい)』(律澪)

もしお時間がありましたら、こちらも合わせてどうぞ。

さらに、もっともーっと読んでみたいという欲張りな読者様のために『Traffic Jam』というサイトを紹介しておきましょうか。そこの「SS投稿掲示板」には、今回のSSの他にもユリアさま(@Yuriakatase)の作品が30本ほど公開されております。

もうどんだけ「けいおん!」Loveなんですか、ユリアお姉さま♡
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おもに百合(GL・ガールズラブ)な小説と周辺情報を公開しています。最近はコミPo!でオリジナル百合4コマも。現在は「けいおん!」、「魔法少女まどか☆マギカ」とオリジナル。カプ傾向は澪梓、憂梓、恵和あたり。あと、ほむほむは百合。
このブログはリンクフリーですが、相互リンクはお受けしておりません。ご了承くださいませ。
注:管理人の名称は「あっとあとみっく」が正式ですが、ごくまれに「藍」と名乗ることもあります。

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