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『Ai have note PC』(オリジナル百合SS)

オリジナルの百合SSを公開します。

『Ai have note PC』という題です。

あらすじ
二十一世紀の現代にも魔法は厳然として存在する。
一台のノートPCにかけられた魔法が、藍の運命を大きく変えた。

って感じで。

FC2コミュ「ゆるゆる小説くらぶ」の第一回お題小説用に書きました。
お題は『藍』と『ノート』なんです。
ノートPCが『ノート』にはいるのか、よくわかんないんですけど。

それに、こういうのに参加するのは初めてなので、
空気読めてないんじゃないかと心配です。

いちおうこの小説は、
このブログの他の小説とは無関係なので、
これ単体で読めます。
今のところは(笑)

それでは、お楽しみくださいませっ!



 『Ai have note PC』




 二十一世紀の現代にも魔法は厳然として存在する。

 だって、そうとでも思わなければ。とてもじゃないけど、ここで起きてるコトを説明できそうにない。

 目の前に置かれているのは一台の古ぼけたノートPCだ。とにかく黒くて、とにかく重くて、とにかく遅くて。ただキーボードの右下に小さく”IBM ThinkPad”というロゴがついてるのだけは、ちょっとカッコいいかな。他にはキーボードのタッチがいい感じだ、というくらいしか、ほめる所が思いつかない。

 親に押し付けられたのでなければ、こんなPCを選ぶことはないだろうね。だいたいワードを起動して、使えるようになるまで一分以上待たされるなんて。絶対ありえないし。

 とにかく、使えねーPC。それが大学三年になったばかりの私が、このPCに抱いていたイメージだった。

 それがどうだろう。

「は、早い……」
「でしょでしょ?」

 私の隣でニコニコと人懐っこい笑みを浮かべているのは、大学の先輩の楠木美晴さんだ。この先輩にたった二日間預けただけで、このPCはまるで別物のようになっていた。メニューだってきびきび開くようになってるし、前はカメみたく遅かったワードの起動速度だって。

「そこら辺で売っているCorei搭載ノートと比べても全然負けてないんですけど」
「これがこの子の本当の能力なのよ」

 いとおしそうにThinkPadロゴを指で撫でながら、美晴先輩がつぶやいた。

「いったい、何をしたんですか?」
「大したことじゃないよ。ちょっとメインメモリを4GBに増設して、それから内蔵HDDをSDDに換装して、最後にWindowsの設定をいくつかいじったくらい」
「……えっと、すいません。なんスか、それ」

 日本語でおk、という台詞をあやうく飲み込む。魔女の言葉で語られても、私にはさっぱり意味不明なんですけど。

「うーん、要するに部品をいくつか取り替えた、ってこと」
「はー。それだけでこんなに変わるもんなんですねー」
「まあね。ちゃんと勉強してればそんなに難しくないわ。この子が何に困っていて、どうすれば解決できるのか。本当の実力を発揮できるようになるのか」

 今度は私の目を見つめながら。

「私はこの子の声を聞いて、それに答えただけよ。もっと働きたい、いや働けるよって声をね」

 そのどこまでも優しげな表情はまるで、赤ん坊をあやす母親のようだった。

「それにしてもまさかIBMの機械を使ってる後輩がいるとはね。世の中まだまだ捨てたモンじゃないわ」
「そういうもんなんですか。できれば新しいPCの方がいいんですけどね。こいつ、重たいし」
「そりゃあ最新のPCには性能的に太刀打ちできないでしょうけどね。でもさすがはビッグブルー。工夫すればちゃんと答えてくれる。私も久しぶりにいい仕事させてもらったって感じ」
「”ビッグブルー”って何ですか?」
「ああ、昔IBMは”ビッグブルー”つまり青き巨人って別名があったんだって。会社が大きいってことと、ロゴが青いことから」
「私には先輩が巨人に見えますが」
「背丈は確実にキミより小さいはずなんだけどな」

 そう言って先輩はあはは、と笑う。そうすると左の頬にえくぼができる。反則だよね。勉強できてPCいじれて、そのうえこんなに可愛らしいなんて。私なんか存在意義ゼロじゃん。

「それじゃ今度から先輩のこと、ビッグブルーって呼ぼうかな」
「うーん、私はそこまで立派じゃないねー。せいぜいインディゴブルーがお似合いってとこかな」
「その、インディゴブルーって?」

 またもや聞き覚えのない単語だ。自分の無学っぷりが恥ずかしい。

「たとえばこのジーンズの色みたいな青のことよ。日本語では藍色ともいうわね」

 そう教えてくれてから、今度はいたずらっぽい笑みを先輩が浮かべる。

「そっか。キミと同じだね、芹沢藍ちゃん」

 どうして。
 先輩に名前を呼ばれただけなのに。
 こんなにもドキドキしているのだろう、私は。

「心底、羨ましいです。私にはどんなに努力しても、先輩みたくできそうにありません」
「そんなことない。ちゃんと勉強すればできるようになる」
「無理ですよ、そんな」
「大丈夫。私が保証するから」
「そう、でしょうか」

 残念ながらたとえ先輩にそう言われても、はいそうですかと納得できるほど頭の中がお花畑ってわけじゃない。すると先輩は私の肩にすっと手を回し、耳元でささやいてきた。

「では特別に、秘密の呪文を教えてあげる」

 ヤバイよ。今にも心臓が破裂しそうだよ。

「センス・オブ・ワンダー。はい、復唱して」
「センス、オブ……ワンダー」

 先輩の台詞をオウム返しするのがやっとだった。

「そ。『不思議感』とでも訳するのかな。この世界は新鮮な驚きに満ちているのよ? たとえば今日みたいにね」

 驚き。確かに。あの使えないPCが先輩の手で。まるで生まれ変わったみたく。

「だからできるよ」

 確信に満ちた声音が心に響く。

「今日の驚きと感動を忘れずに努力を続けていけば、必ずできるようになる」

 にっこりと先輩が微笑みを浮かべた。

 おそらくこの人はPCだけでなく、人間にも魔法を使えるに違いない。私はそう思った。

    ◇  ◆  ◇

 あれからもう五年も過ぎてしまったんだな。

 手近なエアポートタクシーを捕まえる前に、私はポケットから携帯端末を取り出すと、自宅のサーバーマシンとの間で情報同期するよう指示を出す。空港の到着ロビーへ入った瞬間にサーバーと自動的に公衆無線LAN経由でリンクが復旧し、とっくに同期作業は終了してるはずだが、まあ念には念をというわけだ。

 先輩の手で再生されたIBMのノートPCは、それから縦横無尽に活躍してくれるようになった。メールの読み書きをしたり、卒論を書いたり、DLLやドライバを入れ替えたり、コードを組んだり、ネットワークの挙動をモニタリングしたり、Webサーバーを立ち上げたり、新型OSのエミュレータを書いてみたり。まるであの子が自分の身体の一部のように感じられたくらいだった。

 もっとも最近はさすがに処理能力に限界が見えてきたのと、製造終了からずいぶん年月がたち、修理部品の調達がしだいにむずかしくなってきたこともあって、今では自宅でサーバーマシンとして余生を送っている。もし今度中核部で故障が起きれば、復旧作業は困難を極めることになるだろう。だからできるだけ大切に使い続けたいと思っている。なにせ先輩の手によって再生され、私がこの道に進むきっかけとなった大切なPCなのだから。

 藍色の空のもと、こうして私がフィンランド・オウル市の空港までやってきたのには理由がある。明日からこの地で開かれる、ネットワーク・セキュリティマネージャーの国際会議にぜひ参加してほしいとの依頼を、当局経由で受けたから。ちょっぴり感慨深い。

 凶悪化・巧妙化する一方の地球的規模なネットワーク犯罪に対抗するために、世界のコンピュータ・セキュリティの専門家が年に一度、ここに集まって様々な討議を行う。わざわざ遠路はるばる集まって会議を行う理由はたったひとつ。実際に顔を会わせる以上の信頼関係の構築手法が未だに確立されていないためだ。おそらくは、どれほどネットワークが発達しても。

 それにしても決して短いとはいえない旅行だった。日本からヘルシンキまで旅客機で九時間。そこからさらに国内線に乗り換えて二時間ほど。日本時間ではもう夜だ。いくらビジネスクラスを乗り継いだといっても、いい加減座るのにも嫌気が差してくる。

 ではなぜ、この極北の港町オウルがその場所として選ばれたのか。それは比較的街の規模が小さく警備が容易であること、ネットワーク設備が充実していること、なによりオウル大学のセキュリティ対策チームの高い手腕が世界にその有名を轟かせているからだった。

 たとえば二〇〇二年にこのチームが発見した、SNMPに関するセキュリティーホールは実に五十個所以上にもおよぶ。しかも調査が進むにつれ、それはPCや世界各地で稼働するネットワーク機器はもちろん、インターネットを支える基幹システムにまで影響が及ぶことが次第に明らかになっていった。その結果、世界の主要なコンピュータ・ベンダーは、目まいを起こしそうな膨大な時間と貴重な人材と天文学的な費用を、その対策に費やす事態に陥った。

 だがもしこのセキュリティホールが悪用されれば、世界中のコンピュータ・ネットワークが悪い連中の意のままになってしまう。それはもう想像するのも恐ろしい最悪の事態であり、もし気づくのがもう少し遅ければ、人類社会が二度と立ち直れないほどの打撃を受けたかも知れない。オウルのチームの業績は、それを未然に防ぐきっかけとなったのだった。

 美晴先輩は三年前からそのチームに参加し、めきめきと頭角を現しているらしい。噂は放っておいても聞こえてくる。あそこにはミハルという名のウイザードがいる、と。ちなみに、現在ドラフト段階にある新しいセキュリティ認証システム。これは関係者の間では、本来の名称であるケルベロスV17よりも、彼女の名前と日本語の”見張る”を引っかけて『ミハルコード』と呼ばれることが多いと聞かされている。

『なんで写んないのよ、このバカカメラ』
『壊れてんじゃないの?』

 そんな風にあれこれと考えていた私の耳に、なにやら甲高いフィンランド語が飛び込んでくる。声のする方向に顔を向けると、傍らで二人のプラチナブロンドの少女が、デジカメ相手に格闘しているのが目に入った。

『ちょっと貸してみてくれる?』

 幸い設定モードに落ち込んでいるだけだった。すぐにメインメニューに戻って、そこから改めて撮影モードに。シャッターを押してから画像を呼び出し、二人に見せてやる。

『ほら、ちゃんと写るでしょ』

 たちまち称賛の嵐が巻き起こった。

『すごーい。まるで魔法使いみたい』
『あたしたち全然わからなくって。本当にあなたってスゴイ』
『あたし、あなたみたいになりたいわ』

 興奮気味に叫んでいた少女のひとりが、ふと不安そうな表情を浮かべた。

『でも、なれるかしら?』

 そうそう。そう思うんだよね、最初は。

『誰にでもできるのよ。もちろん、あなたにだって』
『あたしにも?』
『もちろん』

 大きくうなずいて。

『今日の驚きと感動を忘れずに努力を続けていけば、必ずできるようになる』

 センス・オブ・ワンダー。それは凡人を超人に変身させる魔法の呪文だ。五年前の私がそうだったように。あなたたちも、きっと。

 その時だった。背後から声をかけられたのは。

『しばらく会わないうちに、ずいぶんと言うようになったじゃない』

 振り返るまでもなく、私には声の正体が何者かわかっていた。仮にもこの私に対して、ここまで不遜な態度を取ることが許される人間など、世界にたった一人しか存在いない。

「お久しぶりです、美晴先輩」

 なにせこの私、芹沢藍がこの地に立っていられるのは、先輩に教わった魔法の呪文と、先輩が再生してくれたノートPCのおかげなのだから──。

                                (おしまい)
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おもに百合(GL・ガールズラブ)な小説と周辺情報を公開しています。最近はコミPo!でオリジナル百合4コマも。現在は「けいおん!」、「魔法少女まどか☆マギカ」とオリジナル。カプ傾向は澪梓、憂梓、恵和あたり。あと、ほむほむは百合。
このブログはリンクフリーですが、相互リンクはお受けしておりません。ご了承くださいませ。
注:管理人の名称は「あっとあとみっく」が正式ですが、ごくまれに「藍」と名乗ることもあります。

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