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『ドルチェ・メッザヴォーチェ』(けいおん頂き物SS)

けいおんのSSを公開します。といっても私の作ではなく、ツイッターでお世話になっているワールドの旗手にして紬世界の女帝、ユリアさま(@Yuriakatase)の手による作品をお預かりしたものです。

お題は『ドルチェ・メッザヴォーチェ』(甘くて、そして柔らかい声)。
三人称でメインですが、唯梓もきっちり織り込んでいるという。

あらすじとしては、部室で盛大に溜息を吐くに声をかける梓に、微笑みながら紬が事の真相を…。一方、先生に用事を言いつけられた唯とも…。とまあ、こんな感じでしょうか。

梓・恵和メインの本ブログで?という方もいらっしゃるでしょうが、騙されたと思って読んでみてください。深く考えさせられる、特に女性にとってはある意味切実ともいえる内容ですので。約9000文字とちょっとサイズ大き目ですけれど、これでもユリアさま(@Yuriakatase)の作品としては短い方なのですけどね(苦笑)。

ただし、全年齢向けをウリとしております本ブログとしては大変心苦しいのですが、この作品に限って特別に15禁というレイティングを設定させていただきます。

申し訳ありませんが、
15歳未満の読者さまの
閲覧はご遠慮ください。


これは作品中にソフトながら性的描写が含まれているため、中学生以下には若干刺激が強いかも、という判断です。なぜそのような作品をこのブログに掲載するのかという言い訳は、作品の内容に深くかかわるため、作品の後ろに解説という形で書きました。

逆に10代後半から20代の女性には、ぜひとも読んでいただきたいと思っています。「性的描写」に抵抗のある方もいらっしゃるでしょうが、本作品とその後の蛇足めいた解説をご一読いただければ、なぜ私がこの作品にこだわるのかがご理解いただけると信じます。

それでは、お楽しみくださいませっ!




 『ドルチェ・メッザヴォーチェ』



「はああああああああああ~」
が机に突っ伏すなり、長い溜息をつく。
「なんですか先輩、いきなりそんな」
ちょうど音楽室に姿を見せた梓が、そんな部長に呆れた声をかける。
「うふふふふふ」
そこに、
お湯とポットと、まずはと自分のカップを用意した、
紬が奥から、姿をあらわした。
女神のような、それでいて可憐な笑顔のまま。
「あのね、りっちゃんは」
「あ、こらムギっ!」
親友が前置きなく奇襲で斬りこむことを察した、
が慌てた声を出す。
ちゃんと上手に出来なかったから、悩んでるのよ」
女の秘密は秘密にあらず。
内緒話は端からもれるもの。
実にあっさりと、紬はたったひとりの
4人にとって最愛の後輩に、我らが部長の秘密を明かした。
秘密は共有されるべきもの。
もう一つの原則にもとづいて。
「・・・内緒にするって言ったじゃないか、ムギぃ」
悲しげなうめき声をあげる。
「あら、梓ちゃんに秘密を作るの?」
首を傾げた笑顔のまま、の反論を力業で封じた紬は。
盆を机に置くと、梓のカップをとりに軽やかに身を翻しながら言う。
「一昨日の日曜、やっとりっちゃん、ちゃんとお部屋でしたみたいなの」
「ああああああ゛あ゛あ゛あ゛」
頭をかきむしってのけぞる、ヘアバンドの少女を横目に
微笑みを絶やさないまま。
「でもね、上手にできなかったんですって」
「・・・えええええ!」
内容が内容だったせいか、脳内での事実認識が遅れていたらしい。
今度は小柄なツインテールの少女が絶叫した。
「まさか、ほんとに、先輩、先輩と・・・
あの、その、せっ・・・じゃなかった、
えっち・・・いやそうじゃなくて、、
結ばれちゃったんですか!?先輩と!」
ガタンと椅子を蹴り上げるようにたちあがり、
その勢いで後ろに倒れようとするのを、反射的に支えながら、
混乱した内容の声をはりあげる。
「るっさいな、
とっくに唯の腕の中でにゃんにゃん言ってる猫が
いまさら何を驚いてるんだ」
「そ、そんなことしてませんっ!」
声を張り上げながらも、態度がやっぱり本人の意志を裏切っている梓に。
「憂ちゃんがぼやいてたぜ。
仲いいのはいいんだけど、
わたしがいるところでもあんまりいちゃつかれても、ってな」
「憂がいる所で、そんなことしてませんっ!」
あまりにもお約束な自白をして、
その事実に自分でも更に動揺した直後に、
不意に梓は思い当たった。
このまま唯先輩と自分がお茶のネタにすり替えられてたまるか。
「・・・ふーん、で、ムギ先輩?」
すぐさま表情を改めて、
「なぁに、梓ちゃん」
内容の生臭さをまるで意識させない紬に。
「このヘタレおでこ部長は、
よりにもよってわたしの先輩に、
ナニをしてくれてやがったんですね?」
梓にとっては会心の一撃、
本人にとっては痛恨の一撃で読みと攻守をひっくり返されて、
ワインだと思って酢を飲んだような表情になる律。
「そうみたいね、梓ちゃん」
カップを置いて、ポットに注意深くお湯を注いで、
葉がジャンピングするタイミングを計りながら、
くすんだ金髪の少女は、穏やかな声を梓に返した。
もう言葉もでなくなってしまった、普段は陽気な少女。
その律に、意地の悪い後輩が。
「でも、うまくいかなかったと」
追い打ちをかける。
「・・・」
先輩とうまく”結ばれ”なかったと」
「・・・っるさいなあ」
「澪先輩を、ちゃんと善がらせてあげられなかったと」
「・・・くうぅぅぅぅぅ」
「・・・ぷっ♪」
「なかのぉっ!」
本気で暴れまわったらせっかくの紬の紅茶をこぼしかねない。
そのへんは阿吽の呼吸で、ちゃんとわかってるふたりは、
すぐに梓がつかまってみせ、律も加減してヘッドロックをかける。

あたたたたた、言い過ぎましたごめんなさい律先輩、
ぎぶ、ぎぶです
うるさーい、どうせへたでへたれでしたよ、
ごめんなさいだよーだ

ひとしきり加減を抑えてじたばたしてまわるふたりに、
「はい、りっちゃん、梓ちゃん、お茶淹れたわよ」
やんわりと微笑んで、紬は騒ぎを収める。
素晴らしくでたウバの、鮮やかな香りを前に、
ふたりとも制服と髪を直しながら席に戻って、
それぞれのカップを手にした。
「お菓子は、唯ちゃんと澪ちゃんがもどってきてからにしようね」
そう言った紬は、
最低限の片付けをしてから、自分の席におさまった。
律、梓、紬。
この場にいないふたりが抜けた結果、ちょうどきれいな三角形をつくる。
「・・・あー。とりあえずはじめようか」
「今日は、唯先輩と澪先輩、それにさわ子先生は?」
「唯ちゃんと澪ちゃんは古文の先生のお手伝い、さわ子先生は出張」
言ったはいいものの、まだ表情を選択しきれていない律に代わって、
紬が答える。
ああ、きょうはだから。
こんな話題でも平気だし大丈夫なのか。
内容が内容なだけに、やっぱり内心で周囲が不安だった梓は、
ようやく肩の力を完全に抜いた。
「わたしの」澪先輩にとうとう手をだした
律先輩が呼び出しを食らったってそれはそれだけど、
わたしや他の先輩まで、巻き添えで呼び出しなんかされたくないです。
そんなひどいことを思いながら、梓は紅茶を含む。
深い苦味と鈴蘭の高貴な香り、しかもそこに絶妙に含まれる
ムギ先輩の愛情。
半ば陶然としてそのすべてを舌と喉と鼻から全身に広げた、
1年下の後輩の姿を、先輩2人はそれぞれの表情で見守る。
なんだかんだいって、ふたりはこの、後輩を愛してやまないから。
そして彼女の思いを手に入れた、この場にはいない自分たちの中心に、
ちょっとだけ羨望の気持ちを共有する。
そんなふたりの思いを知ってか知らずか、
梓はカップを戻してから言った。
「で、どうしてムギ先輩は、そんなことを知ったんですか?」
盗聴とか探偵とか、この人ならやろうと思えばなんでもできるだろうな、
とちょっと思いながら喋った梓に。
「りっちゃんが相談してくれたの」
そうしてもらえたことを心から喜ぶ表情で、
紬は答えた。
「・・・まあな」
律も半ばは不承不承ながら、事実を認める。
「そもそも、私、律先輩のヘタレぶりからして、
どうせ澪先輩に手はだせないと思ってましたけど」
「なかのぉっ!」
もう一度立ち上がりかける律を、
カップをもう一度手にすることで封じてから。
「でも、よく手を出せましたね。
そのことはたしかにすごいです」
そういって、自分ではドヤ顔を向けたつもりで律をみる。
でもその中にある、梓が意識していない
何かに促されたように、
自分でもカップから紅茶を喉に流し込んだ律が。
「まあ、なんとなく、
そろそろいいのかもしれないって思ってた」
そう、言葉をつむいだ。
「・・・いちおうさ、澪の気持ちは確かめてあったし、
あたしも決心がなかなかできなかったけど、
やっぱりどこまで考えても、
あたしは澪が好きなんだ。
今年の夏祭のときに、
出店の当たり屋でめちゃくちゃ金かけてとった、
宝石はイミテーションだけど、
純銀のリングを渡した時に
澪のやつ、黙って薬指につけたから。
それを見た時、すごく納得がいったんだ。
・・・だってあたしの渡したリングだぜ。
澪が知らないわけなんかない。
それをつけた澪の笑顔をみたときさ、
やっぱり、あたしは澪じゃなくちゃダメなんだ、って
ほんとうにそう思った」
そこまで話して、ふたりの顔を見据えてから、
もう一口、啜る。
「休みの時、なんだかんだであたしら一緒のこと多いからさ。
どっちの家族も、あたしらをふたりだけにしてくれる。
しかも一昨日は、聡がいなかったから。
母さんたちも夜までもどらないし、
ふたりで夕食つくってみようっておもってたから・・・。
でもそれが何を意味してるか、わかったとき。
澪がうっかりアイスティをこぼしてさ。
それが・・・澪の腿を濡らしちゃったから」
様子を思い浮かべたのだろう、梓が赤面する。
それがきっかけとしては十分すぎることは、経験としてわかるから。
そして事前に話を聞いていた分、
生々しさからは多少自由になっていても
紬もまた、大きな胸にしまわれたドキドキを抑えきれない。
「で・・・さ」
そこで言葉を切った律は、
ふたりの顔を見て、観念した。
「それで、・・・押し倒しちゃったんだ。
やっと、キスもできた」
その言葉に、
梓はすでに真っ赤に染まってた、かぶりを振った。
紬も口元を抑えて、
好奇心に満ちた青い瞳を、上気した頬と一緒に照らした。
「・・・ま、まあ、そのあと何をしようとしたかとかは
かんべんしてくれ」
本当は、先に紬にはもう少し詳しく話した律だが、
梓も含めて、この場でもう一度話すことは無理そうだった。
「でも、さ、一度は澪もうなづいてくれたんだ」
あの澪がさ、真っ赤になって、
まるで小さな子どもの時のように、こくりってうなづいたんだ。
自分の話で一瞬トリップしかけた栗色の髪の少女は、
慌てて理性の鎖を繋ぎ直す。
「でも、うまくいかなかったと」
梓の遠慮の無い言葉に、彼女ががっくりと項垂れる。
「そうだよ、うまくいかなかった。
パンツを下ろすとこまではなんとかなったんだ。
もちろん上だってとったさ。
お風呂で何度もみてる裸だけど、
自分の部屋で明るい光の中で、
上気しながらあたしを見つめる
澪の肌と熱は最高だったさ。
・・・でも、そこからがダメだった。
何をしていいかもぜんぜんわからないし、
澪も半分かたまっちゃってて
なにも求めてくれない。
最後に、腹を決めて・・・
おっぱいとあれに指を伸ばしたら、
「痛いっ」って顔をそむけちゃって・・・
そこまでさ」
むぅ。
結局ほとんど全部話してしまった律にツッコむのを忘れて。
梓はなんとなく、申し訳なさを覚えた。
たしかにあのふたりなら、わからなくもない。
だけど・・・
本心ではもったいないな、って思うと同時に、
あっさり結ばれてしまった自分たちのほうが、
むしろ珍しいんだって、改めて
梓は認めるしかなかった。
初めてのあと、憂にだけは打ち明けたあとの、
彼女の羨ましそうな表情が脳裏に蘇る。
その表情に、
実は自分が激しくぐらついたことはとりあえずいったん仕舞いこんで、
梓はしょんぼりとしている律に、声をかけた。
「ま、まあ、次はきっとうまくいきますよ」
「るっせ、どうせあたしにゃダメなんだよ」
やけくそという感情そのままに、律は絶叫した。
「こういう振る舞いをデリカシーが無いって言うんだってさ。
実際そうかもしれないさ。
あたしこう見えても、あんまり自分のだって触ったことないし、
ましてや澪のを触るなんて心の準備も知識もぜんぜんたんなかった。
でも、きっとそういう時がくれば自然にうまくいく。
そう思ってたんだ。
・・・そんなの甘いって、
あとでわかったって遅いのにな」
への字に曲がった口元。
その端が強く噛み込まれていることを、
小さな後輩は痛い気持ちとともに気がつく。
ややあって、
「マニュアルに書いてあることを読んでいたって、
最初からうまくはいかないとおもう」
ようやく紬が、声をだした。
「セックスのハウツー本のたぐいに
役に立ちそうなことは、ほとんど、ない。
たったひとつだけ例外があるとすれば、
それは、優しく触れてあげること、体温を伝えてあげること」
たしかにそうだと、梓は感じた。
そうっと、服の上から、なんどもおたがいに触りっこをした。
服を着ていても、
好きな人の形、息遣い、出てくるもの、
それらすべてを指や掌や脚で記憶するように。
そして、
まず目より、
残りの4感でお互いを知ったあとで、
ようやくお互いをさらけ出したことを思い出す。
そこからは、そんなに迷いも怯えもなかった。
いろんな表現をされても、
たとえ好きな人のものでも、見た目はグロテスクなあれも、
けっして豊麗でもないけど
・・・ちょっと悔しいけど、私より小ぶりでないあれも、
ちゃんと感じて、触って、揉んで、舐めていたから。
だから私たちは、迷わないですんだと思う。

・・・まさか最初から
ふたりとも飛んじゃうとはおもってなかったけど。

自分をじーっと見つめるふたりに、
ようやく梓は気がついた。
こんどこそ正視に耐えられず、
両手で顔を隠して机に突っ伏す黒髪の少女。
でも、不意に顔をあげて。
「だいじょうぶですよ、きっと次はうまくいきます」
あの唯先輩だってわたしをちゃんと導いてくれたんだ。
「ばっかやろ、もうそういう問題じゃないんだよ」
律がふたたび悲しみを表情にだした。
「澪のやつ、指輪の位置を、中指に変えていたんだ」
「まさか」
最初梓は本気にしなかった。
さすがに学校内では、澪が指輪をつけてはいないのを
知ってもいるし。
あれ?・・・でもそういえば最近の登下校では?
いやそういえば寒いし、最近は澪先輩外では手袋してる。
そうなると表からはわからない。
でも、律先輩なら知っていそうだ。
ふたりだけの時間があるんだから。
「そういえば、昨日今日と」
「ムギ先輩?」
「りっちゃんと澪ちゃん、手をつないでない。
教室でも一緒になってないよね」
実際、このふたりが時にはケンカめいた状態になるのは、
梓も紬もわかっている。
でも、それが休み時間を持ち越すとか、悪くとも日を超えて
維持されたままになることはめったにない。
律が風邪を引いていて、そのせいもあって
情緒不安定になっていた、1年前の学祭の時以外では。
難しい顔をして天井を見上げる律。
彼女に、なんて声をかけるべきか、
本来なら明敏なふたりの少女でさえ、しばし迷った。
・・・もうすこし器用に振る舞える人で、
大事なことには用意周到だと思っていた梓も。
自分の心の中の「少女」を持て余していることを知っていて、
自分を詳察することから逃げていることに気づいてる、紬も。



「はああああああああああ~、
やあっと片付いた~」
職員室を辞して、長い廊下に脚を踏み出して、
栗色の髪の少女が溜息をつく。
「唯はあんまり役に立ってなかったけどな」
肩をならべて歩き出した、漆黒の髪の少女がそう受け止める。
「澪ちゃんしどい・・・
うん、たしかにあんまり役に立てなかったけど、
それでも一生懸命やったんだよ」
むくれて口をとがらせる、自分たちのアイドルでもある
バンドのボーカリストに。
澪は心からの笑顔をむけた。
「大丈夫だよ、唯がいたから確実に仕事は早く終わった。
手伝ってくれてありがとう、唯」
それは偽りなしの本音だった。
そして、澪を呼べば結局誰かがついてくることを見越して、
手伝いを命じた堀込先生の策士ぶりを考えて、苦笑する。
・・・ちょっとばかり、音楽室への道のりを遠く感じている、
彼女に、唯が今度は少しだけ前にでて話しかける。
「ねぇ、早く音楽室いこ。みんな待ちくたびれてるよ、きっと」
今にも腕か手をとって引っ張りだしそうな、
澄んだ無邪気さの、明るい笑顔。
薄暗さをまといつつある廊下の中でも、
まるで夕暮れ時の白熱灯のような優しいそれを。
澪はだれかのそれと比べてしまっていた。
あの日から、ちょっとギクシャクしてる。
その迷いが、指輪の位置に現れてしまう。
「ねぇ、澪ちゃん」
いつの間にか、唯の笑顔は澪の歩く方向の正面に向いていた。
「・・・え?」
唯は普段の不器用ぶりを思わせないで、
澪を正面に見据えたまま、まっすぐ後ろに歩いて行く。
「おい、唯、危ないぞ」
それに答えず、
「澪ちゃんは、きれいだよね」
「・・・え?」
またも反応の術を失ってしまう澪。
「夕日に透かされた澪ちゃんの
髪と、瞳と、肌と、唇」
「・・・」
「くやしいくらいだけど、ほんと、絵になるよ。
ざ・びしょうじょだよね」
「なんだよそれ・・・」
そそっかしくて危なっかしい唯のことを、
心配していた気持ちが少し削がれる。
だから。
「りっちゃんが、澪ちゃんといっしょにいたい気持ち、
わかるよ」
はっとなって、唯の顔を凝視してしまう。
「お似合いだと、思うもん」
あいかわらず、唯は笑っている。
・・・自分では気づいていないんだろうか。
唯は、こんなに可愛いのに。
普段、人一倍ファッションだのお化粧だのに興味を向けてるくせに、
唯は自分が可愛いって自覚をしていないように見える。
あまりにも素直に、人を褒めるんだ。
律に対しては多少色んな要素を混ぜるけど、
ムギに、梓に、憂ちゃんに。
クラスメートのみんなに、いや、全員に。
・・・そして、私に。
その思いがかすめて、唯が何を話していたか、
少しの間。
澪は聴き逃してしまっていた。
「・・・でね、澪ちゃん」
ようやく意識が戻ってきたその時。
笑顔のまま何かを話し続けていた、
唯の脚がよろめく。
「あ・・・」
とっさに澪は踏み出し、
背中から崩れかけた、唯の、細い身体を抱き寄せた。
「・・・あ、ありがとう、澪ちゃん。ごめんね」
「しっかりしろ、そうでなくたって唯は・・・」
そう応じかけた矢先に。
下り階段の踊り場から、複数の黄色い声がふたりに届いた。
「きゃー!唯先輩が!」
「平沢先輩、秋山先輩に抱きしめられてる!」
「あーん澪先輩、やっぱりかっこいいよう!」
どうやら現場を、全部押さえられてしまったらしい。
一人は慌ててはいるけど、とっさに携帯を自分たちに向けようとしてる。
それが何を意味してるかを気づいた澪が、
それでもどうしていいか混乱しているその時に。
「おっと、お嬢さんたち、写真はノーサンキューだよ。
これはみんなの心のメモリーだけにいれておいてね」
一瞬目が点になって、
次いでなんて気障なやつだって思って。
でも実は。
唯が澪と自分を、彼女たちの好奇心と感動から
うまくいなしたことにやっとおもいあたって。
唯はすごいな。
微かに漏れた言葉を、腕の中の少女は聞いていたかどうか。
まだ澪に体重を支えられたままなのに、
どうしてこんなセリフがポンと出てくるのか。
憂ちゃんや梓、律、ムギがよくいう、
「唯はほんとうはすごい」
この言葉の理由を、改めて感じる。
下級生たちが次々に投げかける言葉を、
唯は余裕をもって捌き、そしてさり気なく、立ち去ることを促す。
その意味を察した彼女たちが、その場から離れた時に。
やっと唯は、自分の体重を修正した。
さっさとやれとか言うほど、唯は重くない。
律よりは重いけど、それでも。
ゆえに、体重と質感が少し離れることが残念に思えたその時。
唯が自分から、自分の体を引き寄せるのを
澪は感じた。
「だいじょうぶだよ、澪ちゃん」
「唯」
「こうして、服越しでくっついていたって、こんなに幸せなんだよ」
「・・・唯」
澪ちゃんとりっちゃん、月曜から手をつないでないでしょ。
指輪の位置も変わってた。
でもきっと。
今度は、うまくいくよ。
ぽんぽんと、背中をたたく唯。
だってこんなに、澪ちゃん綺麗なんだもん。
いい匂いだってする。
ひんやりしてるみたいだけど、その実はすごく熱いくらい、あったかい。
りっちゃんもちょっと慌ててた、だけだよ。
きっと、お互いが大事すぎて。
澪ちゃんもりっちゃんも、どうしたらいいかわからなかったんだよね。
きっとね。
唯は温かい。
そう、文字通り。
梓が、憂ちゃんが、
そしてときどきだけど、すこしためらいながらだけど。
ムギが身体をくっつけあう理由がわかる。
こんなに温もりが優しい子。
春の日差しにつつまれた布団の中で、
ゴロゴロするあの快感。
そして安心感。
「澪ちゃんも、怖いのわかるけど、りっちゃんを愛してあげて」
何もかもお見通しか。
苦笑して、澪も唯を抱きしめる。
「・・・わかったよ、唯」
「うん、それでこそ、澪ちゃんだよ」
その言葉に本当に励まされる。
嘘も偽りも少しもない、澄んだ声。
リズム隊は、夫婦だよ。
どこかで読んだ一文を、唯が口にする。
わたしたちだったらふ~ふだよね。
そう言って、唯はもう一度、澪の頭をかるく自分の頬によせた。
「きっと、幸せになれるよ。
だってこんなにお似合いなんだもん」
「・・・ありがと、唯」
えへへへ。
いつものほにゃ、っとした笑い。
その笑顔をみたときに、ふたりは自然に身体を離した。

さ、音楽室にもどろ?
そうだな。

日差しがだいぶ傾いてきたのを感じる。
秋の日はつるべ落とし。
そんな詩的な、古い表現を思い出す。
そして澪は、自分の左手をみた。



音楽室からは、楽器の足りない中途半端な合わせが聞こえる。
唯と澪が、いつものきしむ扉を開くと。
「おかえりなさい、澪ちゃん、唯ちゃん」
「唯先輩、澪先輩!」
それから。
「・・・遅かったじゃないか、唯、・・・澪」
あの、本当は強がりの、
寂しがりやの、硬い笑顔のことを認める。

そして、その笑顔が、
ほんの少しだけ柔らかくなり、そして目元に涙が浮かんだのに気づく。
その時、みんなが少しだけ、暖かさをましたのも。

たったこれだけのことなのに。
澪は律の心が戻ってきたのを感じた。
「練習してたんだな、もうあんまり時間もないし、わたしたちもやるか」
「えー澪ちゃん、せっかくだからお茶しようよ」
いつものやりとり。


そして帰り道。
律が身体をよせてきた、ふたりだけの時間に。
澪は自分から、左腕を律の右腕に絡めた。

「今度は、うまくやるからな。覚悟しておけよ、澪」
「自分だけが主導権取れるなんて思うなよ、律」

(おしまい)



解説
野暮を承知で、解説という名の言い訳を試みてみます。

せっかく名作の余韻に浸っているのに、ウザい話はノーサンキューという方もいらっしゃるでしょう。ですがこの文章を読んでいるあなたがもし若い女性、特に未成年の女性でしたら、もう少しだけお付き合いいただけると幸いです。

このSSのメインテーマのひとつにセックスがあります。百合みっくすブログはご存じのとおり百合専のサイトであり、このSS自体も律と澪の関係を主軸に書かれています。しかしテーマそのものは百合、あるいは同性愛、異性愛といった特定のジャンルを越えた、もっと普遍的な問題なのではないでしょうか。

作中の律と澪は一線を越えようとしましたが、結果的にうまくいきませんでした。それが二人の間に溝を作ってしまい、関係そのものがきしみ始めてしまう。幸いなことに二人の周りには多くの理解者がいてくれたこともあって、関係修復のきざしを見せる所で結ばれています。

しかし現実はそんなに甘くありません。セックスは決して楽しいものばかりではない。女性にとって男性とのセックス=妊娠というリスクはほぼ常識だと思います。ですが他にも関係を壊してしまう危険もはらんでいるということ。はたしてそれをどれだけの人が認識しているでしょうか。残念ながら暗澹とした気分に陥らざるを得ません。

恋人に関係を迫られ、関係を壊したくない一心で意に沿わぬセックスに身を委ねてしまう人も、世の中には少なからず存在します。ですがその一方で、この国の離婚原因の第1位はいわゆる「性格の不一致」。その中には「性の不一致」がかなりの割合で含まれていると言われます。結婚という強固な関係を築き上げたカップルでさえそうなのです。

恋人だから、付き合ってるから、ただそれだけで相手ときちんとした合意のない、特に自分が我慢する形でのセックスを行うこと。それで親密度が深まればまだいいのですが、そうそううまくいくケースばかりではない。むしろ深い傷を負い、果ては関係を壊してしまう原因にもなりうる。

そのことを、しっかりと心に刻み付けていただきたいのです。

なあ作者のユリアさまからは、百合みっくすブログが全年齢向けであることをご配慮いただき、性的描写を押えた内容に差し替えようかというご提案もいただきました。しかし私はそのご厚意に感謝しつつも、今回に限り15禁というレイティングを設定してまで、原作通りの公開に踏み切りました。それは性的描写の部分を削除することによって、なぜ律が狼狽え立ち竦んでしまったのかが、読者にきちんと伝わらない可能性を危惧したからです。それに自分が読んだ限りでは、性的描写も必要最小限に押えられていると感じましたし。(この辺りのラインは一人一人異なるでしょうから、異論はあると思いますが)

この文章を読んでいるあなたにも、いずれ選択を迫られる時がくるでしょう。その時、本当に目の前の相手が、自分とセックスするだけの価値がある人間なのか。ひょっとしたら人間関係そのものを破壊する危険さえあるのに。あなたの人生において、このSSがその判断の一助となってくれることを、心の底より願っています。

最後に、蛇足ともいえる私の文章にここまでお付き合いいただき、深く感謝いたします。ありがとうございました。

あっとあとみっく 拝

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あっとあとみっく

Author:あっとあとみっく
おもに百合(GL・ガールズラブ)な小説と周辺情報を公開しています。最近はコミPo!でオリジナル百合4コマも。現在は「けいおん!」、「魔法少女まどか☆マギカ」とオリジナル。カプ傾向は澪梓、憂梓、恵和あたり。あと、ほむほむは百合。
このブログはリンクフリーですが、相互リンクはお受けしておりません。ご了承くださいませ。
注:管理人の名称は「あっとあとみっく」が正式ですが、ごくまれに「藍」と名乗ることもあります。

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