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『ペンタグラムな彼女・その2・前半』(オリジナル百合SS)

オリジナルのSSを公開します。
以前からご要望のありました『ペンタグラムな彼女』前半
後半の続きです。

一年間、同じ電車に乗り合わせていながら、
一言も言葉を交わせなかった
芽衣と”ペンタグラム”を持つ少女。

二人は放課後のファーストフードで、
その距離をさらに縮めていくのだが……。

はずなのですが……(汗)

ただし今回は前編のみの公開となります。
後編も書き上がり次第公開したいのですが、
おそらく早くても来週末になると思います。

それでは

 『ペンタグラムな彼女・その2・前半』(オリジナル百合SS)

お楽しみくださいませっ!

あ、もちろんフィクションです。力の限りフィクションです。
もし貴女がこれと似たような話を見聞きしたことがあったとしても、
それとこれはまったくの無関係です。

そこのところ、よろしくお願いいたします。




 『ペンタグラムな彼女・その2・(1)』




「待てっ!!」

 まるで悲鳴のような主審の静止命令で我に返った。あわてて審判や何人かの係員たちが崩れ落ちた相手の選手のところへかけ寄る。彼女の身体を中心に薄い黄色がかった水たまりがみるみるうちに広がっていく。おそらくもう意識はないだろう。

 でも私にはどうでもいいことだった。もう終わってしまったことだから。

 試合と呼ぶにはあまりにも一方的な展開だったことも。
 周りの係員たちが、私のことをどのような目つきで見ようとも。
 会場を埋め尽くした何千人という観客たちが一様に声を失っていることも。
 優勝候補筆頭だった私のお相手が、そのど真ん中で失禁するという醜態をさらしてることも。

 弱すぎる。お話にならない。アホらし。



 何もかも、どうでもいいことだった。



 自分の控え席に向かって歩きながら軽く手を振り、待ち構えていた監督や先輩たちに報告する。

「えへへ、勝っちゃいました」

 ところが誰からも返事がない。ひょっとして聞こえなかったのだろうか。

「どうしたんですか。私、勝ちましたよ?」

 一番近い歳の先輩の前に立ち、もう一度念を押す。半ば友だち、半ば姉のように思っていた先輩なら、きっと私の勝利を歓迎してくれると信じていた。

 だけど。

「……ひっ!」

 小さな悲鳴と同時に彼女が二歩、三歩と後ずさる。顔に張り付いた、まるでゴキブリの大群を目にしたような引きつった表情が、彼女の内心を何よりも雄弁に物語っていた。いや彼女だけじゃない。同じチームの人たちや、その後ろの何十何百という観客たちにも、まったく同じような色が浮かんでいる。

 それはまごうかたなき恐怖と嫌悪の感情だった。

 こんなマイナーな大会に駆けつけてくる観客たちであれば、それなりに目は肥えているはず。ましてチームのメンバーたちはそれなりに訓練をつんでいる。審判や係員の人たちに至っては今さら念を押すまでもない。決して素人ではないのだ。そしてだからこそ、理解できることもある。

 ただ張本人の私だけが、まるっきりわかっていなかったのだ。

 吹けば飛ぶような小娘が、人としての限界をひどくあっさり超えてしまったという現実を。そして周囲の人々の氷のように冷たい視線が自分の心に突き立てられた、その本当の意味を──。

    ◇  ◆  ◇

    ◇  ◆  ◇

    ◇  ◆  ◇

 夕方のマクダーネルは大抵の場合、混雑しているものと決まってる。

 安さと早さ、そしてそこそこの美味さ。何よりもめったなことでは客にあれこれ指図するようなこともない。そんな場所に、日々のやりくりに頭を悩ませる若者たちが集まるのは当然だよね。それはもう水が高いところから流れ下るという摂理に匹敵するくらい。

 その中でも定番中の定番、390円のチーズバーガーセットをトレイに載せ、私と”ペンタグラム”は三階席の片隅の二人がけの席に納まっていた。しかも窓際の眺めのいい場所というオマケ付きである。もっとも外に見えるのは殺風景なコンクリートジャングルだけなのだけど。
 店内はほぼ満席に近い。おそらくは学校帰りなんだろう、いろんな制服を身にまとった少女たちが、思い思いにさえずったり笑ったりしている。

「ここは近隣の女子高生の溜まり場みたいな所なんですよ」
「そうなんですか」

 私の言葉に小さくうなずきながらも、彼女はきょろきょろと物珍しそうに、あちらこちらへと視線を走らせていた。そのたびに彼女の長い髪がさわさわと揺れる。それはそれでずっと眺めていたくなる光景ではあったけれど。
 そんな彼女のことを、隣の席の別の学校の女子高生二人組が見とれているのに気づいた。初々しさが抜けていないから、きっとまだ一年生なのだろう。ふふふ、どうよ。カワイイでしょ、彼女は。……っと、それは置いといて。

「ところで、改めて自己紹介とか、いいですか」
「あ……はいっ」

 あわてたように彼女が私の顔に視線を戻す。普段の凛とした雰囲気ももちろんだけど、こんな彼女もカワイイ。

「私は加田岡(かたおか)芽衣っていいます。周りの人は芽衣って呼びますけどね。この制服を見ればわかると思いますけど、都立八王子鷹山(ようざん)高校の二年生やってます」

 わずかに目を細めながら彼女はうなずいた。まずは好意的な反応か。

「それと誕生日は五月十二日のおうし座で、血液型はB型。どちらかというと勉強よりも身体を動かす方が好きですかねー」

 すると、くすりと彼女が小さく笑った。

「もしかして、五月生まれだから『芽衣』ですか。英語で五月はメイだから『芽衣』と」
「あ、わかります? あんましモノ考えてないんですよね、うちの親」
「ごめんなさい。そういう意味で言ったんじゃないんです。ただ私も同じだなあと思って」
「それって、どういうこと?」

 おっと、ついタメ口になってしまった。もっとも彼女はあまり気にしていないみたい。

「私の『五月(さつき)』という名前も、似たような理由で名付けられたので。そういうわけで、実をいうと自分の名前のコト、あんまり好きじゃなかったんです」

 あ、なるほど。そういうことか。

「ああ、申し遅れました。私の名前は久利藤(くりふじ)五月といいます。東京瑛華女子学園の……ええと、二年生です」
「この辺りでは『瑛華(えいか)』とか『瑛女(えいじょ)』で通る名門女子高ですよねー」

 軽くうなずきながら、内心でタメでよかったと安堵する。ずっと私より年上じゃないかなと思ってたから。

「そんな立派な所でもないですよ。通ってる子も、大抵は普通の子ばかりですし……あ、話そらしちゃってごめんなさい」
「それは別にいいですけど。それで?」
「あ、はい。誕生日は五月二十九日のふたご座で、血液型はAB型です。本を読んだりするのは好きですけど、残念ながら身体を動かすのはあまり得意とはいえませんね」
「それで『五月』と名付けられたってわけですか。私とおんなじ五月生まれという理由で」

 なんか、思ってたよりもおっとりした感じで言葉を紡いでいく人らしい。それともまだ緊張が取れていないのか。もっとも私の自己紹介の形に合わせて答えを返してくれるトコなんか、わりと気配り上手な人なのだろう。

「はい。でも貴女と同じ理由で名前が付いたと知った今では、むしろ両親に感謝したいくらいです」

 顔をわずかに紅く染めながらも、輝くような笑顔でそんなことをおっしゃる。いや、そんな感じで告白されちゃうと、むしろこっちのほうが恥ずかしいんですけど。

「そろそろ食べよ……ましょうか。さめちゃうし」
「はい、そうですね。いただきます」

 そう同意してくれたものの、やはりなかなか手をつけようとはしない。先ほど予想したみたく、彼女はこういうお店にあまり入ったことがないんだろう。やっぱここは私がお手本を見せないと。

 恥をかかせちゃ、せっかく誘ったのに申し訳ない。朝はあわただしかったから、放課後に駅で待ち合わせ、改めてゆっくりお話しましょうということになったのだし。

 とりあえず自分のアイスコーヒーの入った容器のプラスチックのふたを開ける。クリームとガムシロップのパックを開けてコーヒーに入れ、ストローで無造作にぐるぐるかき回しながら、彼女の様子をうかがう。

 すると、彼女も見よう見まねという感じでクリームのパックを開け、容器の中にそそごうとした。ところが。

「あっ」

 小さな悲鳴とともに、パックが彼女の手から逃げ出した。トレイの上で一度バウンド。もし放っておけば、そのまま何度も跳ねまわって中身を全部ぶちまけてしまうことになる。

 もちろん、そんなコトはこの私が許さない。

 ただちに戦闘機動を開始。視覚情報からパックの軌道を計算。未来位置の予測完了。その空間にすっと右手を伸ばす。二回目の落下寸前。力を入れすぎて握り潰さないよう細心の注意で指先を制御。親指と人差し指だけでキャッチ成功。

「はい、どうぞ」

 きょとん。

「わあ、すごいっ」

 一拍遅れて称賛の言葉が、彼女の桜色のくちびるから吐き出された。

「ありがとうございます。とっさに受け止めるなんて、すごいですね」
「そうかな。人より小さい分、器用にできてるのかもしれないけど」

 大丈夫。今くらいの動きなら、かなりの訓練は必要だけど、異常ってほどじゃない。それに彼女が疑うような感じもないし。
 だけど私が、そんなよこしまなコトを考えている間に、彼女の注意はまるで別の所に向けられていたらしい。

「あ、クリームが指先に」

 そうつぶやくなり五月さんは、ふところからまるで真珠のような光沢をはなつハンカチを取り出すと、私の手をそっと握って拭きとり始める。パックの未来位置と違って、彼女の行動はまるで読めなかった。

「いや、そんな。別にいいですよ」
「どうぞご遠慮なさらずに。このくらいさせてください」

 もちろん無理やりに手を引っ込めようと思えばできなくもない。でもそれでは五月さんの好意を拒絶してしまうことになる。そういうわけで彼女が満足するまで、ちょっぴりくすぐったいのを我慢しながら、なすがままにされることにした。

 それにしてもこのなめらかで、それでいてしっとりとした手ざわりと、不思議な色合い。きっとこれが噂のシルクってヤツだな。もちろん私がそんな高級品を持っているはずはない。やっぱ瑛女に通う人間はレベルが違う。

「だいたい拭き取れたと思います」
「ありがとう」
「私だって、このくらいならお役に立てますから」

 うれしそうに彼女が柔らかな笑みを浮かべる。思わず目をそらしてしまう。あまりの可愛さに魂まで持って行かれそうだ。

 ちょうど窓の外では、おそらくバスか快速電車が駅に到着したのだろうか。眼下の道路に無数の人たちがあふれているのが視界に入った。

「見て見て。ほら、窓の外。まるで人がゴミのよーだ」

 ……沈黙。

 彼女の頭上に無数のハテナマークがふわふわ浮かんでいるのが見えたような気がした。あちゃー、こりゃ思いっきりはずしたな。

 私がなんとかフォローしようと思ったのとほぼ同時に、困惑気味だった五月さんの目に、唐突に理解の火がともった。

「ああ、はい。確かどこかで聞いたことがあったなあと考えていましたが、ようやく思い出せました」

 まるでキリスト教徒が聖書の一節を暗唱するような表情を浮かべながら、彼女は言葉を重ねる。

「さきほどの芽衣さんのそれは、宮崎駿監督の名作『天空の城ラピュタ』の1シーン。ラピュタのロボットたちの攻撃で飛行戦艦が真っ二つに割れて、そこから無数の乗員たちが投げ出されて落下していくのを目撃したムスカ大佐が、ヒロインのシータに向かって叫んだセリフですね」
「え、ええ。それで正解です、多分」

 うわあ、素で返されるとすっげー辛いんですけど。悪気はないんだろけどねえ。しくしく。

 そんなアホなやりとりをしてたから、おそらく警戒心がすっかり緩んでいたのだろう。だからまるっきり気付かなかったのだ。

 この場所に危険がせまっていることに。階段に近い席から、少女たちのいくつもの悲鳴がわき上がった、その瞬間まで。

                                ((2)へつづく)

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おもに百合(GL・ガールズラブ)な小説と周辺情報を公開しています。最近はコミPo!でオリジナル百合4コマも。現在は「けいおん!」、「魔法少女まどか☆マギカ」とオリジナル。カプ傾向は澪梓、憂梓、恵和あたり。あと、ほむほむは百合。
このブログはリンクフリーですが、相互リンクはお受けしておりません。ご了承くださいませ。
注:管理人の名称は「あっとあとみっく」が正式ですが、ごくまれに「藍」と名乗ることもあります。

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