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『ペンタグラムな彼女・その2・(2)』(オリジナル百合SS)

オリジナルのSSを公開します。

いつの間にかシリーズ化しつつある『ペンタグラムな彼女』の続きです。
前回の分はこちらから、最初からですとこちらから読めます。

ですが、ほんとごめんなさい。

いろいろな事情で、とりあえず今朝までに書き上げた部分だけ公開いたします。
ひょっとするとさらにあと2、3回わけることになるかも知れないので、
表題も『前・後半』からナンバリング形式にに改めました。

それでは

 『ペンタグラムな彼女・その2・(2)』(オリジナル百合SS)

お楽しみくださいませっ!

あ、もちろんフィクションです。力の限りフィクションです。
もし貴女がこれと似たような話を見聞きしたことがあったとしても、
それとこれはまったくの無関係です。

そこのところ、よろしくお願いいたします。



 『ペンタグラムな彼女・その2・(2)』



 別に私なんか、いてもいなくてもいいじゃん。

 誰も困らないし。
 誰も悲しまないし。
 誰も覚えていないし。

    ◇  ◆  ◇

「何かしら」

 悲鳴の方向に彼女が顔を向けるのと同時に、小さな黄色の物体がこちら目がけて突っ込んできた。

「危ないっ!」

 さすがに手加減する余裕はない。机の上に半ば身を乗り出し、強引に彼女の頭を抱えこむ。机の上のチーズバーガーセットが盛大に飛び散ってしまったが、そこまで面倒は見切れない。
 その様子をまるであざ笑うかのように、私たちの頭上を黄色の物体がかすめて通り過ぎていく。そのまま窓にぶつかるかと思ったが、それは直前でぐるりと軌道を変え、さらに別の空間へと飛び去った。そこでもまた少女たちの黄色い悲鳴がわき上がる。

「いったい何でしょう、あれは」

 ようやく頭を上げた五月さんは、突然の私の無礼はスルーし、ただ核心に関わる質問をぶつけてきた。

「おそらくハチです。スズメバチ。それもとびきりデカイやつ」
「まあ……」

 彼女の顔が見る見るうちに曇っていく。無理もない。平静でいられるはずはないのだ。そいつはこの辺りで一番ヤバい虫なのだから。
 スズメバチは、ハチの中でも特に攻撃的で、かつ猛毒を持つことで知られている。特に日本最大のオオスズメバチともなると、万が一刺されれば命にかかわるケースもあるという。

 黄色い弾丸のようなそれは、決して広いとは言えないファーストフードの三階席をぶんぶんと飛び回っている。向こうの立場からみれば、巨大生物がうじゃうじゃとひしめいている狭い空間に閉じ込められたも同然だ。必死に脱出口を探しているのか、それとも戦う覚悟を固めているのか。まさかハチに聞いてみるわけにもいかない。

「きゃあああぁ!」
「もうやだぁ!」

 ただ、悲鳴が上がるたびにハチの飛行速度が上がっていることから見て、かなり興奮しているのだろう。状況はあまりよろしくない。ここは隙を見て逃げるのが一番よさそうだ。

「いやっ、いやああっ!!」
「しっかりして、落ち着いてくださいっ」

 気が付くと、すっかりパニックに陥っていた隣の席の少女を、五月さんが抱きかかえるようにしてなだめていた。

「この子、前にも刺されたことあるんです。だからっ!!」

 連れの少女が叫ぶように事実を伝えた。なるほど、前にも痛い思いをしてるのなら、恐怖はなおのことだろう。それにアナフィラキシーショックの危険性だってあるし。

 何かで読んだか教わったかした知識が脳裏によみがえった。本当に危険なのは、1回目より2回目以降に刺されたときだとされている。1回目にさされた時のハチ毒を免疫システムが覚えていて、はげしく抵抗すしようとするからだ。人によっては呼吸困難といった重篤な症状になることもある。それをアナフィラキシーショックと呼ぶ。

「芽衣さんだけでも逃げてください」
「んなこと、できるわけない。五月さんを置いて逃げるだなんて」

 思いがけない申し出に、私の言葉は自然ときつくなる。

「私は彼女たちを見捨てられない」
「なんでですか。別にこの子は五月さんの知り合いでもなんでもないでしょ」
「救いを求める人の手を払いのけることなんて、とてもできませんから」

 自分のくちびるを小さくかみしめる。そっか、そういう人なんですね。五月さんという人は。

 もちろん彼女だって決して怖くないわけじゃない。蒼白な顔色を見ただけでもそれはよくわかる。それでも彼女は、赤の他人ですら放っておけない優しさと、恐怖に対して正面から立ち向かうだけの勇気を持っているのだ。

 いつにも増して凛としたその姿にしばし見とれてしまう。それは私に決意を固めさせるだけの力と美しさを持っていた。

 その間にハチは速度を落とし、私たちの周りでゆっくりと旋回を始めていた。もちろん遊んでいるわけではない。おそらくフェロモンを振りまいているのだ。仲間を呼ぶための。

 もし何百匹ものスズメバチが押し寄せてきたら、私でも対処困難だ。もう時間がない。止めなくちゃ。一刻も早く。

「ひとつだけ、いいですか」
「どうぞ」
「これから私のすることは、きっと五月さんには理解できないことだと思います。でも……」

 言葉に迷う。貴女のためとは言いたくなかった。それでは彼女に責任を押しつけることになる。

「……でも、これは貴女を護りたかったから。他の全てが信じられなくても、それだけは覚えていてほしいんです」
「はい」

 小さく彼女はうなずいた。青ざめた顔に精一杯の微笑みを浮かべながら。

「芽衣さんを信じます。心の底から」
「ありがとう。短い間だけど、楽しかったです」

 それだけ言い残してから私はきびすを返す。そのまま見えない扉を閉ざす。背後で五月さんが何か叫んでいるようだけど、もう聞こえない。もう心には届かない。

 頭上を悠然と旋回してるスズメバチをにらみ付けながら、私は最後の思考をめぐらせる。

 それにしても本当に強いですね、五月さんは。だからこそ価値がある。全てをなげ捨ててでも護るに足る人だと信じられる。

 邪魔なブレザーの上着を脱いで座席に置く。役立たずのローファーを脱ぎ捨てる。代わりにバッグから汗拭き用のオシボリタオルを取り出す。とりあえず準備完了。あーあ、わりとお気に入りだったんだけどなあ、このタオル。

 でもまあ。もしも、これで嫌われてしまっても。たとえ拒絶されてしまっても。とりあえず後悔だけはしなくてすみそうだ。いずれ将来、この日のことを思い出すことがあっても、あれが最善の選択だったのだと納得できる違いない。きっと。

 さあて。そうと決まれば、さっさと片付けますか。

 ──かちり。

 頭の中のスイッチが硬い音を立てて切り替わり。

 私は戦闘機動を開始する。

 (つづく)
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おもに百合(GL・ガールズラブ)な小説と周辺情報を公開しています。最近はコミPo!でオリジナル百合4コマも。現在は「けいおん!」、「魔法少女まどか☆マギカ」とオリジナル。カプ傾向は澪梓、憂梓、恵和あたり。あと、ほむほむは百合。
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注:管理人の名称は「あっとあとみっく」が正式ですが、ごくまれに「藍」と名乗ることもあります。

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